第103話 レイジの剣
「フフフ、まだよ。レージ! あなたの力はこんなものじゃないはず! もっとアタシに感じさせてちょうだい!
レイジと同じくはじき飛ばされたアリスは、太刀を地面の突き刺し立ち上がる。そしてさぞうっとりとした表情で要求してきた。
ここまでやり合ってもなお、彼女はさらに激しい闘争をご
「おいおい、まだ足りないっていうのかよ。こっちはもう一杯一杯なんだが」
「嘘おっしゃい。今のレージの剣は、レイヴンにいたころと比べてぬるいわよ。始めは狩猟兵団を辞めたブランクのせいかと思ったけど違う。己が剣を振るのを、意図的にためらってる感じね。昔から自分の力を無意識におさえてる
「ははは、やっぱり長年連れ添った戦友だけあって、見抜かれてしまうか」
アリスの
彼女の言う通り今のレイジは力のすべてを出し切っていない分、狩猟兵団のころと比べて弱くなっているだろう。しかしそれはレイジ自身納得してのこと。いくら力を発揮できたとしても、その先に久遠レイジの欲しいものが手に入らないとわかってしまったのだから。
「――なぁ、アリス。今オレが求めてるのは、かつての破壊のための剣じゃないんだ。あのころは純粋な力だけを求めてたけど、それは結局どこまでいってもただの力。そこからはなにも見いだせない。そう、オレが本当に欲しかったのは、なにかを守るための力だ。アイギスで戦っていく中で、その想いは核心に変わったよ。九年前あの子と
「――それが今のレージの剣の正体か……。破壊ではなく守るための剣……。どうやらレージは、アタシの手の届かないところに行こうとしてるのね……」
アリスは胸をぎゅっと押さえながら、さびしげに目をふせる。
彼女からしてみれば、今までずっと一緒に戦ってきた戦友が決して
「――でも、今ならまだ連れ戻せる。こっちの道に!」
そんなショックを受けていたアリスだったが、その瞳に希望の光を
「――アリス……」
「レージも気付いてるはず。あなたの剣にはまだ迷いがあることを。本当は
アリスは手のひらをレイジの方に差し出しながら、うったえかけてくる。
アーネストにも言われた通り、レイジにはまだ迷いがある。理性では間違っているとわかっていても、本能が破壊の剣を求めてしまうのだ。それもこれも久遠レイジはアリスがいる狂気の道に、すでにどっぷり
「これはくつがえすことのできない事実。だからアタシがレージの奥底に眠る獣の本性を、呼び起こしてあげるわ。かつての狩猟兵団時代のあなたに戻るようにね。アタシと全力で戦えば、嫌でも思い出さずにはいられないでしょ?」
そして差し出していた手をにぎりしめ、不敵にほほえみかけてくるアリス。
「おいおい、そこは応援とかしてくれないのか?」
「フフフ、お断りよ。アタシはレージと一緒がいいもの。昔のように堕ちていくアタシの手をにぎって、ついてきてほしい。家族として、戦友としてどこまでも……。あの幸せだったころの日々を願わずにはいられない。もう、恋こがれておかしくなるほどに……」
アリスは遠い目をしながら、かつての幸せだったころの記憶に思いをはせる。
それ以外になにもいらないというほど、彼女はただ願っている。狂気じみた
「だからレージと闘争の世界を歩み続けるためにも、アタシの手の届かないところになんか行かせないわ。たとえ後ろ髪をひいてでも、振り向かせるんだから! そもそも、一年前に宣言したわよね。今度こそこっちの道に染めてあげるって!」
アリスは両腕を広げ、恋する乙女のように熱烈に宣戦布告を。
「――そっか……。ならわるいが、その手を振りほどいてでも先に行かせてもらうぞ。オレには会わなければならない人がいるんだ。彼女と再び再会を果たすためにも、ひき返すわけにはいかない! この守るための剣で道を切り開いてみせる!」
刀を持った手を振りかざし、久遠レイジの覚悟を声高らかに告げる。そして刀をさやに
アリスの方もそれを合図に太刀を引き抜き、地を蹴った。
レイジは持ち前のスピードを全開で。アリスは自身の重力をカットしての突撃ゆえ、またたく間に両者の間合いは詰められていく。互いにここで勝負を決めるつもりであり、この
「
刀と太刀が激突するであろう直前、レイジが先に打ってでる。
抜刀したことにより放たれるは、大気を斬り裂きながら得物へ
叢雲流抜刀陰術二の型、斬空刃。抜刀のアビリティのブーストを、斬った時に応じる風圧に付加させ繰り出す技だ。こうすることで放った斬撃を飛ばすことができ、相手との距離が離れていようが斬り払うことが可能であった。
斬空刃で狙ったのは今だ振り上げられているアリスの太刀。飛翔した斬撃は狙い通り標的にたたき込まれ、彼女のバランスをわずかながら崩す。この技は
アリスの動きがみだれたのを確認して、レイジはさらに駆ける速度を上げ接近。彼女が太刀を振るよりも速く、再び刀を鞘に入れ抜刀のアビリティを。
「叢雲流抜刀陰術、一の型、
目にも止まらぬ高速の二連撃が走るのは、アリス本人ではなくまたもや彼女の太刀。斬空刃によって与えた正面からの衝撃に、追い打ちをかけるかのごとく左右から剣閃をたたき込む。ここまで続けざまに攻撃を集中させれば、太刀を振るうどころの話ではない。もはや持ち続けるのもつらいほど。彼女の武器は
結果、レイジの予想以上の効果を生む。なんと太刀を彼女の手から引き離し、後方へと吹き飛ばすことに成功したのだ。レイジはそのまま彼女の重力による緊急回避に気を付けながら、斬り
第三者が見れば、ここでレイジが決めたと思うだろう。アリスは武器を持っておらず、まだ重力による回避をしようとしていない。ここまで来ればもうなにもかも遅く、刀が得物を斬るのも時間の問題。まさにレイジが思い描いた理想の光景であった。
しかし当の本人は。
(今の刹花乱、手ごたえがなさすぎじゃないか? まるでもう太刀に力が込められてなかったような……、――ッ、まさか!?)
決め手の一撃を繰り出そうとするが、ある嫌な予感にさいなまれていた。
そう、もしアリスが太刀を離さないように力を加えていたならば、あそこまできれいにはじき飛ばされはしない。もはや二連撃の斬撃を受けた直前には、太刀を離す気でいたとしか説明がつかないのだ。
となれば今のアリスの状況は、意表を突かれ判断がにぶっているわけでは決してなく、自身の明確な意思で生み出したということ。それが意味するのは。
「フフフ、アタシの方が一枚上手だったようね。さあ、
刀が届く前に、アリスの重力を付加させた
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