第59話 忍び寄る魔の手
ゆきが現在いるのはレイジたちが訪れた、アーカイブポイント。その中のばかでかい三階建ての洋館の、最上階の広々とした仕事部屋。あちこちに武器やガーディアン、メモリースフィアなどが散乱している室内で、作業ディスクに座りながら、依頼された作業をこなしていた。
電子の
二つ目は改ざんを使って、クリフォトエリアのデータベースにアクセスすること。これにより座標移動で入ってきた場所の
「状況の
那由他たちアイギスからの依頼や、軍からの依頼。どちらもアラン・ライザバレット関連の状況分析を頼まれているのだ。
なぜゆきなのかというと、高位ランクの電子の導き手の方がより多くの情報をデータベースから引き出せるため。もし普通ランクの電子の導き手であった場合、ただの地理データを持ってくるのが精一杯。だがSSランクのゆきならば、そこに様々な注文を
「――あー、もぉ、もう一回調べてみるかぁ。クリフォトエリアのデータベースにアクセス!」
クリフォトエリアのデータベースに改ざんを使ってアクセスし、自分が欲しい情報を集めていく。座標移動で入ってきた地点や、一日にその場所を訪れた人数、戦闘が起こった場所などさまざまな統計データが。あとはそれらを元に分析していく流れだ。
「クリフォトエリアのデータベースに映像が記録されてたら、もっと楽なのになぁ。おかげで割り出したりとか大変だよぉ」
ちまちまとした作業に、ゆきは愚痴をこぼす。
このクリフォトエリアはかなりシビアな設定で作られており、楽な方法をとれなくされていた。その中の一つである映像の記録の禁止に関しては、セフィロト自身はもちろんこのエリアの利用者も一切できないように設定されているのだ。あと監視カメラのようなアイテムも存在していないのである。そもそもそんなことが可能ならば、誰も情報を集めるためにみずから動かず、戦いがなかなか始まらない。ゆえにセフィロトがデータの奪い合いを加速させるため、禁止したとのこと。
ただ離れたところの映像を、ガーディアン限定で見れる方法はあった。精神的負担がかかるが、ガーディアンに意識をリンクさせ、その映しだしているであろう映像を見るという裏技が。ゆきがレイジたちのサポートをしていたのも、この方法をとっていたからできたといっていい。
「――うぅ、なんだか帽子がないことに、すごく違和感が。くおんに宣言した以上、また新しいのをかぶるわけにはいかないしなぁ……」
頭を両手で押さえ、目をふせる。
アレは一応雰囲気を出すために用意したものなので、さほど重要なものではない。だがずっとつけてきただけに、少し落ち着かなかった。
「まぁ、すぐ慣れるよねぇ。――てへへ、それにしても友達かぁ……」
友達という言葉に思わず顔がにやけてしまう。
ゆきは学園に通っておらず、一日中のほとんどをエデンで過ごしている。学園での勉学においてはすでに独学で身につけており、エデンに関する教習プログラムに関しては剣閃の魔女をやっている時点でもはや必要ない。
家が家なだけになにをやっても許されるので、ずっと自分の部屋に引きこもっているというわけだ。そのため友達というものは今までおらず、エデンにいたとしても剣閃の魔女の仕事ばっかりで遊んだりもほとんどしていないという。
なので友達という言葉に、
「――さてと……」
しばらく物思いにふけって天井を眺めていたゆきは、作業用の席から唐突に立ち上がった。そして来客を迎えるために、作業部屋の中央まで歩いていく。
「くおんに頼んでおいたのに、まさかゆきみずから
「くす、気付いてたんだ。さすが剣閃の魔女ね」
ゆきが堂々とした態度で問いかけると、扉が開きそこから赤い髪の少女が入ってきた。見た感じゆきの苦手な柊那由他と、同じような雰囲気の少女である。
「ふっふーん、そっちがこの屋敷に入ってきた時から、うすうす勘付いてたよぉ。それにしてもウワサ通りのチート。ゆきほどの優秀な電子の導き手じゃないと、気づかないほどだもん!」
両腰に手を当て、胸を張りながら告げる。
ゆきがこうも早く異変に気付けたのは、事前に注意していたから。
災禍の魔女はセキュリュティなどを無視できるようなので、いくら厳重なゆきのアーカイブポイントだろうと簡単に侵入してくる恐れがある。ゆえにいつも使っているセキュリュティだけではなく、古典式なやつなど特殊なものをいくつか用意していたのだ。
それもこれもアラン・ライザバレットの標的に、剣閃の魔女も入っていると予想していたから。軍と協力関係を結んでいるゆきをだまらせるのは、軍の動きをにぶらせるのに非常に効果的な作戦ゆえに。
「確かにあなたたち電子の導き手からしたら、チートでしょうね。エデンの定(さだ)めた
くすくすと口元を押さえ、不敵な笑みを浮かべる
「うん、すっごく! だから災禍の魔女を倒して、じっくりそのプログラムを分析させてもらうからぁ! 覚悟しろぉ!」
手をぐっとにぎり、もう片方の指を彼女に突き付けながら宣言する。
「くす、ざんねん! この力は人を選ぶから、あなたでは使えないの。それにそもそも、あなたではこの森羅ちゃんを倒すのは不可能だから、諦めた方がいいよ」
「言うねぇ。ならひさしぶりに全力を出してあげるー! この剣閃の魔女と畏怖(いふ)されたゆきの力、とくとその身に刻み込んでやるもん!」
森羅の挑発めいた笑みに、手を横に振りかざしアイテムストレージから自身の武器を展開。現れたのはきれいに装飾された八本の細身の剣。八本の剣はゆきを取り囲むように地面へと突き刺さる。
「くす、少しは楽しめそうね。レイジくんにはわるいけど、せっかくだし森羅ちゃんも少しは本気をだしてあげようかな」
やる気のゆきを見て、森羅も臨戦態勢を。そのかまえた手からは、ウワサ通りの黒い炎が立ち込めていた。まるですべてを黒く染めるといわんばかりの、禍々(まがまが)しい
(――ウワサは本当のようだねぇ……。あの黒い炎、普通の炎じゃない。当たったら絶対ヤバイやつだぁ……)
「さあ、始めましょうか、剣閃の魔女。あなたの電子の導き手の力は、こちらにとって厄介なの。だからしばらくの間、大人しくしといてもらうね」
敵の狙いはゆきの強制ログアウトのペナルティと、ここにある剣閃の魔女のアーカイブスフィアらしい。強制ログアウトは約三日間で済むが、アーカイブスフィアの方を奪われたとなると非常にマズイ。ゆきの電子の導き手としてのすべてのデータが向こうに渡り、今後の活動に大きく支障が出てしまうだろう。最悪そのことを利用され、奴らの言いなりにならざる負えないかもしれない。
「ふーん、ゆきが邪魔ねぇ」
剣閃の魔女の力が邪魔でわざわざ先に潰しに来たということは、彼らが行おうとしている計画はただ事じゃないということ。ゆえにゆきの返事は決まっていた。
「望むところだぁ! そんな楽しそうなお祭りに乗り遅れるわけにはいかないから、全力でお断りさせてもらうもん!」
ゆきは地面に刺さった二本の剣をつかみ、引き抜きながら宣言を。
「あと、前々から災禍の魔女のこと気に入らなかったんだよねぇ! なんでよりにもよって、ゆきと同じ魔女の異名がついてるのかなってぇ! どっからどう見ても、かぶってるだろうがぁ!」
そして心からの文句をぶちまけながら、森羅に突っ込んだ。
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