第53話 アポルオン
「――アポルオン……」
「アポルオンが生まれた発端(ほったん)は、とてつもない財力と権力を保持していたある一族の思惑から始まった。もし世界に多大な影響力を持つ者が手を組みその力を一つに合わせれば、世界すべてを支配することが可能ではないのかと。狂言と言っていいほどおろかな話だが、その一族は本気で実行し、あろうことか成功させてしまったんだよ」
アランはおかしそうに話を進める。
「目を付けたのは、世界各国の財閥的存在。彼らが裏で手を組むことで、当然事業は拡大していき世界の影響力を強めていくという寸法さ。そのコミュニティは次第に賛同者を増やして肥大化し、気付けば大国をも優に超える財力と権力を有するほどになっていった」
ライバル同士の財閥が
「まだそれだけならよかったんだが、ここで大きな過ちが起こってしまう。各政府がその甘い
政府まで味方にしてしまえば裏でこそこそやる必要がなくなり、表立ったことさえもできてしまう。いくら法に反していても、それを
「――まさかかつての世界の背景に、そんな裏が隠されていただなんて……」
もはや
「実現できたのもすべてはアポルオンの創設者の一族が、かなりの切れ者だったがゆえなのかもしれないね」
本来ならそれぞれ別の思惑を抱いているであろう者たちを、これほどまでにまとめ上げるのは不可能なはず。だがそれができるほどのカリスマをもった指導者なら、話は別。きっと彼らの利害を見事一致させ、世界の支配という名の理想をもとにこの計画を推し進めたに違いない。
「
「――大体は……。――ということは結月は……」
今世界に多大な影響を与えている財閥が、アポルオンの一員ということ。となれば今レイジの近くにその条件に当てはまる人物がいることになる。世界に名を
レイジは隣にいた結月に視線を移す。
「――うん、そうよ、久遠くん。私はアポルオン序列十三位、片桐に
結月は胸に手を当て、どこか悲しそうに事実を告げてくる。
「レイジ、執行機関の方は流れ的にわかりますよね。アポルオンの支配をより
那由他も那由他で自分が
「久遠レイジ。これで分かっただろ? 今までの世の中はずっとアポルオンが支配していたんだ。そこに自由などなく、我々は奴らの手のひらで
「――それじゃあ、アイギスは……」
話の流れで、レイジはアイギスの真実にたどり着いてしまった。
アイギスという組織が一体どこにつながっているのかということを。
「あれは今の序列一位にいるアポルオンの巫女が作った組織だから、当然アポルオン側だね。エデン協会という隠れみのを着た、アポルオンに都合の悪いものを排除していく組織。ククッ、ご
「違う! アポルオンの巫女が目指してるものは、今のアポルオンを変えることなんだから! アイギスはそんなあの子の願いを叶えるために、創られた組織よ!」
どこか愉快げにかたるアランの言葉を
「今のアポルオンを変えるか……。ククッ、無理な話だね。先代ならまだできたかもしれないが、今のアポルオンの巫女はしょせんお
だがアランは苦笑交じりに、現実を突きつけた。
「……それは……」
「結月、ここでその男にいくら言っても無駄です。状況的にみて、彼が言ってることは正しいんですから。――さあ、アランさん続きをどうぞ。まさかこれで終わりというわけではないですよね?」
那由他は結月の肩に手をおき、静かに首を振る。そしてアランに先をうながした。
「もちろんだとも。では、久遠レイジ、ここからが本題だ。このままアポルオンの好きにさせていたら、この先の世界に未来はない。ただ奴らの都合のいいように管理される、
「……本当の平和……?」
拳をぐっとにぎり熱くかたるアランの言葉に、一瞬カノンの姿が脳裏に浮かぶ。
「そうだ。セフィロトが正常に作動していない、今がチャンスなんだ。もしシステムが以前のように戻れば、こんな好機二度と起こりはしない」
その通りである。もし世界を支配するアポルオンを打倒するなら、今しかない。この下の者が上の者に打ち勝てる、
「勝算は?」
「あるね。そのためにワタシは狩猟兵団を世界中に
アランは勝利を見すえた瞳で、現状の説明をしてくれる。
「あとは少しでも我々に賛同する同士を迎え入れ、計画を実行するだけだ。だからこそワタシは久遠レイジに仲間になってもらいたい。キミほどのデュエルアバター使いが加われば、より有利に事を運べるからね。ゆえにどうか、アポルオン打倒のために力を貸してくれないだろうか?」
「――オレは……」
そして差し出されるアランの手。
もしここで彼の誘いを受ければ、再び狩猟兵団レイヴンのメンバーとして戦うことになるだろう。そうなればアリスと戦わずにすみ、彼女と一緒にいられる。しかもこの道はカノンにつながっている可能性もあった。世界をアポルオンの支配から解放し、自由な平和を勝ち取る。それは彼女が目指していた理想を叶えることと、同義ではないのかと。
「レイジ、あなたがしたいようにしてください。これはすべてを話さなかった私が悪いんですから、レイジはなにも気に病む必要はありません。むしろよくも騙したなって怒っても、いいところなんですからね!」
戸惑っていると、那由他が悲しげにほほえみながらもレイジの意志を尊重してくれる。
まるで優しく背中を押してくれるかのように。
「それにほら、言ったじゃないですか! レイジがたとえどんな答えを出したとしても、あなたの幸運の
自身の胸に手を当て、にっこりと陽だまりのような笑顔を向けてくれる那由他。
「――那由他……」
レイジはそっと瞳を閉じて、自分の想いを
思い浮かぶのは、カノンとの誓いを
(――そうだな。オレの選ぶべき答えは……)
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