第25話 注意事項
「結月はクリフォトエリアのことを、どれだけ知ってるんだ?」
「うーん、少し事前に調べたぐらいだから、ほとんど知らないと言っていいかも」
結月はあごに指を当て、首をひねる。
ちなみにレイジと結月は、メインエリアにいたときと同じように私服のまま。ここは戦場であるクリフォトエリアだというのに、
こんなふうになっているのは、装備をガチガチに固め敵の攻撃をもろともしないような一方的な
「なるほど。ならもうわかってるかもしれないけど、おさらいもかねて説明しとくか」
「うん。お願い、
「それじゃあ、まず第一に気をつけないといけないこと。デュエルアバターはダメージを受けすぎると、どんどん破損していくんだ。そうなると戦闘続行が困難になるだけでなく、アバターとのつながりまで弱くなり、いづれリンクが切れる強制ログアウトになってしまう。これが起こるとやっかいなペナルティを受けるはめになるから、できるだけ避けるように」
デュエルアバターがダメージを受けると、内部データが破損していき動きに支障が出てくるのだ。しかもさらにやっかいなのは、破損すればするほどアバターとのリンクが
「ええと、確か自分の情報が相手側に渡ってしまうんだっけ?」
「ああ、強制ログアウトは急にエデンとのリンクが切れることになるから、デュエルアバターの
「情報って例えば?」
「個人端末の情報とか、デュエルアバターの内部データや
「あはは……、さすがに現実の情報を知られるのはちょっと抵抗が……」
結月は実際にそうなった状況を想像したのか、顔を青ざめた。
「実はこれで相手の情報をつかむという手がある。軍だとこの方法で犯罪行為をしてる人間の身元とか
このことで大事なのは相手から得た情報をうまく使うことで、事を優位に運べるということだろう。軍では特にそうで、パラダイムリベリオン後から増えているテロリストみたいなエデンで違法行為をしている者を、捕まえる時には必要不可欠になっているといっていい。強制ログアウトさえ追い込めば身元や、どこからエデンに入ったかがわかり、現実で逮捕する
さらに落とした情報によってはクリフォトエリアでの潜伏先や、彼らが使用しているアーカイブスフィアなどの保管場所などがわかったりする。そうなると後はそこに戦力をひきいて突入し、その場にいた敵を強制ログアウトしながら進む。最後には敵陣のアーカイブスフィアなどから計画やメンバー構成のデータを証拠として手に入れ、一網打尽にするという流れだ。
現実で逮捕するのは軍の仕事なのだが、しかしそこまで突き止めるのは主にエデン協会が依頼されて行う形式がとられていた。あと敵の拠点に踏み込む時も、軍のデュエルアバター部隊と共に最後の最後まで付き合わされることが多かった。
「逆にテロリストたちが、軍や政府のアーカイブスフィアとかを狙う時もこんな感じになったりする。まあ、もっとたちの悪い連中もいるがな……」
「たちのわるい連中?」
「ああ、今の世の中アーカイブスフィアがらみの情報は、情報屋などを通して高値で取引される。だからクリフォトエリアを
もはやこのようなことがパラダイムリベリオン後のクリフォトエリアだと、日常茶飯事なのだ。それほどまでにアーカイブスフィアに入っているデータは、今の世の中絶大な影響を及ぼすといっていい。もしライバル企業などに渡ってしまった場合、そのデータの内容によっては今まで自分たちが築き上げてきたすべてが一瞬のうちに崩れてしまう可能性があるのだから。このためうまくいけば
「――そっか……。そうなってくるとアイギスの情報が、相手側に伝わる恐れが出てくるのね……。さすがにそれはまずいかも……」
結月はどこか深刻そうにかたる。
しかし気にしているのは自身の情報でなく、アイギスに関係する情報のようだ。まるで情報漏えいしてしまうと、非常に厄介なことになるとでもいいたげに。そう、実際こういった重大な裏を抱えているところの秘密を暴く時にも、有効な手段であった。
「まあ、危なくなったら逃げればいいって話なんだが、問題はログアウトするのに一分の時間がかかってしまうことだ。しかもその間、徐々にデュエルアバターとのリンクが弱くなって動きが鈍くなるから難しいんだよな」
ただでさえピンチの時に、徐々に弱体化しながら一分の時間を稼がないといけないのだ。しかも最後の数秒などログアウトの関係上、デュエルアバター内に意識があるかないかのレベル。そのため棒立ち状態になってしまい、抵抗もできなくなってしまうのであった。
「それだときつそうね。確かクリフォトエリアって座標移動で飛ぶことができないんでしょ?」
「そうだ。一度入ったらもうそこから普通に移動するしかないし、ほかのエリアに行くこともできない。だから出る時は実質ログアウトするしか方法はないな」
クリフォトエリアの
となれば乗り物を使うことで、逃げきれるのではないかと思うかもしれない。しかしあくまで移動用としてスピードは制限されており、しかもかなり目立つのでデータを求めてさまよっているデュエルアバター使いを呼んでしまう可能性が高いのだ。それにデュエルアバターのスペックによっては簡単に追いつかれてしまい、ただの的になる恐れがあるので逃走用にはあまり使われなかった。
ちなみに今いるアースのクリフォトエリアの外周部分に出ることで、そこから別のアースのクリフォトエリアの内周部分へ直接行ける仕様になっていた。
「――ええと、他には、そうだな……。デュエルアバターの破損ダメージは現実やこのエリア外にいる時に、徐々に回復していく仕様になってるんだ。そして強制ログアウトした場合は全回復するまでの約三日間、クリフォトエリアで使えない。しかも一度使用していたデュエルアバターが全回復するまで、他のやつに切り替えることができない仕様になってるから、交互に使うのも無理ってわけだ」
デュエルアバターは一度使用すると再び全回復するまで、別に用意してあるほかの戦闘用アバターを使えないように設定されていた。これによりダメージを受けたならば、別に用意した無傷の戦闘用アバターを使えばいいという考えなくし、全回復するまでの時間というペナルティーを受けさせるようにしたというわけだ。
「へえー、それって少し不便ね。普通一回外に出たら全回復するものじゃないの?」
「ははは、そうなるとこのエリアから出てすぐに入りなおし、全回復したデュエルアバターでまた戦うみたいな戦法が取れるからな」
この仕様はレイジたちみたいな高ランクのデュエルアバター使いにとって、非常にありがたい話だ。これがないと倒した敵が次から次へと戻ってきて、いつまでも戦い続けないといけなくなる。レイジとしてはその分戦えるのでうれしいが、その繰り返しの泥試合となると話は別であった。
「ちなみに一度クリフォトエリアを出たら、再度このエリアに三十分は戻ってこれない仕様になってるぞ」
「あはは……、いろいろと徹底してるんだ……」
「一応こんなものかな。ほかの細かいことはおいおい話していくから、まずは目的地に向かおうか」
いつまでも立ち止まっているわけにもいかないので、とりあえず目的地に向かうことにする。
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