異世界転移したけど貰えたのはまさかのハズレスキル「農業」!?でもレベルを上げてチートスローライフします!

あべやすす

第1話

 学校に行き、教室に入り、自分の席につく。はあ、今日も憂鬱な一日が始まる。毎日クラスのDQN達にいじめられている俺からすれば、ここはまるで牢獄だ。もし、よくあるラノベみたいに俺にもチート能力なんてものがあれば、少しは変われるだろうか。奴らに仕返しをする「力」さえ有れば!

 そんな俺の願いを、どうやら神は聞き入れてくれたようだ。ホームルーム前のざわざわした教室が、突如として光に包まれた。




 目を開けると、知らない場所にいた。周りの様子からすると、ここは教会だろうか?周りにはクラスメイト達ががいて、俺と同じように当たりを見渡している。

 俺は即座に理解した。おそらくこれは異世界転移。それもクラス全員が巻き込まれている。もし俺の想像通りならこの後の展開は、案内人が出てきて今の状況の説明、からのステータスオープンだ。

「お待ちしておりました、勇者様達。突然の事に戸惑っているとは思いますが、まずは落ち着いてください」

 ほら予想通り。

「おい、なんだよこれ!学校は!」

「うそ、信じらんない……」

 DQN達が一斉に騒ぎ出した。そうだ、こいつらは普段は調子に乗っているくせに予想外のことが起こるとすぐに狼狽える。いい気味だ。

 だが、俺以外にも慌てていない奴がいた。

「この人の言う通りだ。みんな、まずは落ち着こう。田中、山田、加藤…… クラス全員いるな。とりあえず安心だ」

 やっぱりお前だよな、佐藤。スポーツ万能、成績優秀、しかもイケメン。それでいて性格もいい。常にクラスカーストの頂点にいる奴だ。お前が声を掛ければみんな安心するだろうよ。

「そこの方、事情を知っていそうですね。話していただけますか?」

「はい、では説明させていただきます。まず皆様は、この世界を脅かしている魔王を討伐するために別世界から召喚された勇者様達です」

 まあそうだろうな。

「そして、皆様には職業と様々な能力が与えられております。一方的で申し訳ないのですが、皆様にはこの世界を救っていただきたいのです」

「おい!ふざけんな、誰がそんなことするか!」

「そうよ!早く元の世界に戻しなさいよ!」

「……誠に勝手な事ではありますが、元の世界に戻るための魔法陣は魔王城にあります。皆様には魔王を討伐してもらわなければいけないのです」

「……はあ!?てめえ、ふざけたこと言ってんじゃねえぞ!」

「やめろ!」

 佐藤の声が響き渡る。

「この人たちだって事情があるんだ。戻れないなら戻れないで、俺たちに出来ることがあるなら協力してあげないか?」

 その言葉に全員が静まり返った。そして、一人また一人と口を開いていく。

「まあ、佐藤がそういうんなら、そうだよな。今更ぐちぐち言っても仕方ねえし」

「アタシも、佐藤がいうんなら協力する」

「ぼ、僕も」

「私も」

 全く、こいつのカリスマはすごいな。慌てふためいていたみんなをすっかりまとめあげやがった。

「皆様……!ありがとうございます!」

「気にしないでいいんだよ。じゃあ、俺たちはこれから何をすれば良い?」

「皆様にはこれから、職業とスキルを確認していただきます。こちらの羊皮紙を握りしめて下さい」

 そうやって一人に一枚ずつ羊皮紙が配られていく。異世界に来てまでプリントを回すんだな。

「では、握りしめてみてください」

 配られた羊皮紙を握りしめると、みるみるうちに色が変わっていく。俺のは鮮やかな緑色だ。

「うおっなんだこれ、すげえ!赤色になった!」

「アタシのは水色ー!どうなってんの?」

「それはマジックスクロールといって、認証した相手のステータスを表示させる巻物です」

 なるほど、あるあるの展開だな。

「アタシは職業…『魔導士』!スキル『氷魔法』って強そう!」

「俺は『剣士』!所持スキル『剣術』だって!おい、佐藤のは… すげえ!佐藤、『勇者』だ!スキルも『光魔法』『聖なる力』… お前、なんかすげえぞ!?」

「どうやらそうみたいだ。よくわからないけど、精一杯頑張るよ」

 ふん、謙虚な奴だ。さてさて、俺のステータスはと…

 職業 『農民』 スキル 『農業』

 なんだ、これ。すごく弱そうじゃないか。戦闘スキルですらなさそうだし。俺はあまりの期待外れに頭を抱えた。

「この教会から出てしばらく行ったところに、皆様の居住地と訓練場を用意しております。そこで存分にその力をお試し下さい」

 まあ、いいだろう。こういう能力は大抵レベルを上げるとチートスキルになるって相場が決まってるんだ。異世界のノウハウを知っている俺が、必ずみんなよりも先に成長し、あいつらを出し抜いてやる!

 俺は、自分がかつてない程の力を手にしているかのような感覚に震えた。









「そんなことも、ありましたねえ……」

 遠い目をしながらそう呟くのは、群馬県でキャベツ農家を営む小林悠真さん(47)だ。三十年前に起きた、とある高校のクラス全員が行方不明になった事件。被害者はその一年後に全員戻って来たのだが、彼もその中の一人だった。

ーーーあの時は、相当話題になりましたね。

「そうですね、僕も一応当事者なので。今まで小説の中の話だった異世界が本当に存在してるなんて、びっくりしましたよ。でも、こっちの世界に戻ってきたらスキルも全部使えなくなってて。証明出来ないことはちょっと辛かったですね」

ーーーその時の事を詳しくお聞かせ願えますか?

「もちろんです。あの時、みんなに職業が与えられたんですよ。みんなが勇者や魔導士、みたいな華やかな職業の中、僕は農民だって。驚きましたね、あれは。まさか、農民か!なんて」

ーーーそれは、特別な能力があったり?

「僕も、それを期待していたんです。実は、戦闘に役立つスキルがあるんじゃないか?とか。でも、そんなのはありませんでした。作物の成長を早めるとか、土壌を豊かにするみたいな能力ばっかりで。本当に野菜を作るしか出来なかったんです。しかも初めのころは、それすらうまく出来なくて。苦労の連続でしたよ」

ーーーそれはやはり、今に通じているんですか?

「大きな影響を与えていると思っています。毎日手探りで必死に作物を作っている時、ふと気づいたんです。こっちが愛情を注いだ分だけ、形となって返ってくるんだって。クラスの仲間達に『お前の作る野菜、美味しいな!』とか言ってもらえた時は本当に嬉しかったですね」

ーーー時期総理大臣との呼び声も高い、佐藤 翼さんも同じクラスメイトと聞きましたが?

「みんなあいつに助けられました。自分自身も不安だったろうに、誰かの事を一番に考えて、励まして。そのおかげでクラスの絆がよりいっそう深まりました。本当にあいつが勇者で良かったと思います。クラスの一人一人の顔と名前を覚えてて、魔王城の前で『小林、お前の作る野菜がなかったら俺たちはここまで来れてなかった』なんて言われた時は感無量でしたよ」

ーーー自分が勇者だったら、なんてことは考えましたか?

そこで小林氏は少し黙り込み、やがて微笑みながら口を開いた。

「いや、やはり勇者はあいつしかいなかったと思います。僕が勇者だったとしても、きっと何も成し遂げられなかった。大切なのは職業やスキルなんかじゃない。自分は何ができるのか、どうするのかだってことを学ばされましたよ」



ーーー今日は貴重な時間を割いていただきありがとうございました。

「いやいや、とんでもない。こちらこそ昔のことを思い出すいい機会になりました。また次の同窓会が楽しみになりましたよ。ああ、是非これを持って帰ってください。うちで育ててるキャベツです。美味しいですよ。なんてったって佐藤が認めてくれたんですから」

そう言って渡されたキャベツからは、確かに愛情と友情の重みを感じた。

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