サマーナイトパーティ

言葉(ことは)

第1話 屁理屈野郎と内包的屁理屈

パアンッ!

 予想外の炸裂音がした時、私は二丁目の公園の茂みに隠れている自分を俯瞰に捉え、高揚と不安を感じた。


「あ〜、夏は暑くなかったら好きなんだけどなぁ」

「暑くなかったら夏じゃないだろう」

「そんなことはないだろう、それはこと日本、さらにいえばこの東京に住んでいるから勝手にそう思っているだけで例えば、真実の口の目の前に今いると思えば少しは涼しく感じないか?」

「話が変な方に飛躍している上にもっとわかりやすく国名とか都市の名前で言ってくれた方がまだわかりやすいと感じるのは僕だけだろうか」

「そんなことはないだろう、要するに俺は慣れ親しんだ環境に長い時間置かれていると固定概念に縛られてしまうという蒙昧した日本人の感覚を揶揄しているんだ」

「いや、言いたいことは何となくわかるんだが、説明や例えが下手くそなんだよ、お前は」

「そうかな」


 この自分が正しいと信じて疑っていないような屁理屈ハラスメント野郎は私の古くからの友人の小口小吉だ。名前に「小」という字が二つも入っているくせに体が僕よりもひとまわりほど大きい。僕も決して小さくないはずだが。


「小吉って身長いくつだっけ?」

「そういう質問をする時は大抵話すことがなくなってしまったが、その場を離れるわけにはいかず、どうにか話をつなげようとして当たり障りのない会話を一生懸命探した挙げ句、何とか引っ張り出したような場合だよな、まるで天気の話をする時のようだ」

「天気の話みたいだな、だけで伝わるよ・・・」

「そうだな、久しく測っていないが、1番新しい記憶では182だったかな、あ、単位はセンチメートルな」

「そうか、やっぱり思ったより高いな」

 いちいち単位のことを明言してきたことに関してはあえて触れない。こいつの扱いはそれでいい。本人も大して触れて欲しいとは思っていないのだ。

「大治は?俺よりは低いよな?」


そして小吉に今現在小馬鹿にされている僕は大葉大治。名前に「大」という字が二つも入っているのに体が小さい。というよりヒョロい、というべきか。身長が低いわけではない。


「168だけど、確かに小吉よりは低いけど・・・中途半端なんだよな」

「でも日本人成人男性の平均身長は確か171とかだったよな、そう考えると低い方に入っちゃうじゃないか。身長偏差値47くらいだな。」


 この「低い方」という言い方に本人が思っている以上に悪意を感じる。そんな曖昧な言い方をされるならストレートにチビと言われた方がまだいいかもしれない。


「そんな偏差値は必要ない」

「でも、低いよりは高い方がいいだろう?」

「そんな無い物ねだりはしないタチなんだ。それに僕は19だ。まだこれからだって伸びるかもしれない。」

「それこそ、日本人の男は基本的には高校卒業くらいで成長は止まるらしいぞ、希望は薄いな」

「そんなこと言ってるから僕以外の友達がいないんだぞ、小吉」

「いや、あれは彼らが俺に彼らが思っている理想のともだちという関係を押し付けようとしていただけで俺は一瞬たりとも友達だとは思わなかったぞ」

「はいはい、そういうところだよ」


 大学に入学してすぐ僕と小吉はボランティアサークルとアカペラサークルとフォークダンスサークルの新歓歓迎会に参加したのだがどれ1つとして馴染めなかった、というより小吉が一方的に先方に嫌われてしまったため僕たちは無所属で生きている。


「いつの話をしているんだ、全く」

「まだ1年くらいしか経っていないだろう」

「でも、あの時はお前も居心地悪そうにしていたじゃないか」

「それは否定できない」

「だろ?だから感謝して欲しいものだね」

「それは否定する。」

「そこはできるできないじゃなく、するんだな」

「もちろん、時として可能かどうか、よりも願望を優先すべき時があるんだよ」

「なんだかんだ大治の方が理屈っぽいよな。内包的屁理屈だ。」

「そうかな」

「そうだよ」


 大学2年の夏、僕たちはお互いの家のちょうど中間地点にあるコンビニの前の何の目的で作られたかよくわからない金属の塀にもたれかかっていた。小吉は灰皿に向かっては帰ってくる、という不毛極まりない、むしろ害を生じる行動をくり返していた。そんなに吸いたいなら灰皿の前で吸えばいいのに。とは思うが彼なりにタバコを吸わない僕に気を使っているのだろう。


「タバコの煙ってさぁ、蚊取り線香みたいに蚊を近づけない効果とかあんのかな」

「さぁ」


 小吉のタバコの先端から灰がポロポロ落ちているのをボーッと眺めながら呟いた。












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