第8話:あなたは、今までに転生させてきた人数を覚えていやがりますの?(その3)
「そうでしたか…まさか、あの娘が亡くなっているとは…」
「だから、あたしも自分のおフクロに関する記憶がないんだよね…。オヤジからは色々聞かされてはいたけどさ…」
「カリラさん。副所長、すなわちあなたのお母様は、大変立派な方だったのですよ。よくも悪くも、スキルを人のために最大限発揮していました」
「スキル…って、つまり、あたしと同じ『精神状態とひきかえに他人の病気を治す』スキルだよね?」
「ええ、その通りです」
「よくも悪くも、って言ったよね? 詳しく教えてもらえる?」
「もちろんですよ。まず、よい面ですが、容易に想像がつくとおり、あなたのお母様はスキルを活用して、本当に沢山の人助けをしました。あまりにも評判だったので、いつしか、彼女の事を『聖母』と呼ぶ人たちまであらわれ、一時期、南のお告げ所に行列ができる程でした。まあ、大半は断って返しましたが」
「聖母…か…。あたしみたいな人間のおフクロが聖母だなんて、信じられないな…。で、悪い面っていうのは?」
「スキルの使いすぎの代償として、常に精神を病んでいました。幸い、それを緩和できるスキル者がいたので、なんとか生活をしていましたが…。色々悩んでいたと思います。人助けはしたい、かといって、自分自身がダメになってしまっては意味がない。そして、本来の副所長としての仕事もしなければならない」
「そうか…そうだよね。あたしだったら、きっと耐えられないな…」
「正直なところ、彼女が病気の人を治療する行為を、わたしはやめさせたかった。そもそも本業に支障があるし、金銭を受け取らない慈善活動は『南のお告げ所』の方針にはありませんからね。ただ、彼女のスキルによって人が集まってくると、同時に様々な情報や人材も入ってくるようになったのです。これは『南のお告げ所』にとってメリットでした。ですから、ほぼ黙認状態だった、というのが実際のところです。今となっては、彼女が苦しんだことについては、わたしの責任が大きかったのではないかと思いますが…」
「でも、なんでそんな聖母みたいな人が、オヤジみたいなヤクザ者と一緒になったんだろう…」
「状況に変化が起きたのは、彼女が妊娠をしたタイミングです。つまり、カリラさん、あなたを宿されたのです。その時は、おどろきました。あの娘からは、お付き合いをしている男性の話すら聞かされたことがありませんでしたから。でも、よくよく話を聞くと、あなたのお父様との馴れ初めは、ほぼ予想できるものでした」
「おしえて! おフクロとオヤジが、どうやって出会ったのか」
「あなたのお父様は、彼女の治療を受けた患者のひとりだったんです。だいぶ重い病気だったのでしょう、治療の後、彼女はいつになく酷い鬱状態に陥ってしまいました。その事を気に病んだあなたのお父様が、献身的に彼女を看護した、というわけです。そう言えば、そんな事もあったなと、後から言われてわたしも思い出しました。とは言え、まさか堅気の方ではないとは思いませんでしたけれどね」
「そうだったんだ…」
「ただ、彼女は、あなたのお父様の病気を完全には治せなかった、と言っていたと思います。お父様は健在ですかな?」
「あたしのオヤジ? ああ、オヤジなら、数年前に死んでしまったよ…。まあ、病気が原因ではないんだけれどね」
「そうでしたか…。軽率に質問したことを、お詫びしますよ」
「ううん、いいんだ。ギャンブルに負けて命を落としたなんて、オヤジらしい死に方だったからさ」
「カリラさん、あなたのお父様と、そのギャンブルで闘った身である私が言えた義理ではないのですが…もしかして、お父様はご自身の病気の事や、死期が近い事を悟っていたのではないでしょうか? でなければ、勝てるかわからない勝負に命を賭けることはなかったのではないかと…」
「さあ…どうだろう。でも…そうかもしれないよね。うん、ありがとう、キルホーマン。オヤジの誇りを気遣ってくれて」
「彼女が妊娠した事について、わたしは、これはよい機会だ、と思いました。産休と言う形で一時的に職を離れれば、あの娘も立ち直れるだろう、と。そして、母親になってからは、スキルは封印してもらおう、と。彼女は『南のお告げ所』の登録上は今でも産休状態です。そして、すぐに帰ってくるはずが、その後、連絡がつかなくなっていた。それから二十年くらいを数えるでしょうか。正直に言います。カリラさんのお母様、つまり副所長が産休に入ってから、わたしが所長と副所長を兼任状態になっているのですが…わたしも、この通り歳をとりました。現在の労働時間を確保し続ける程の若さはありません。突然、変なことを申し上げるようですが…カリラさん、彼女の娘であるあなたであれば『南のお告げ所』の誰もが納得をします。お母様の後任として、副所長を務めるつもりはありませんか? 正確には、これから副所長としてやっていくための訓練をうけていく、という事ですが…」
「は、はあ? や、やだよ…。それだったら、あたしもエレンも、ラフロイグの姉キとオジサンの店でメイドをやって暮らした方が、よっぽどいいもん」
「カリラ、気持ちはボクもうれしいよ…でも、カリラはお母様の事も気にかかっているんじゃないのかな?」
「な、なんだよ~。エレンは、あたしと一緒にメイドをやりたくない、って言うのかよ」
「そうじゃないんだけど…。それが本心なら、ボクはこれ以上、何も言わないけれど…」
「エレン…。あたしたち、まだ子供だよ。そんな重大な話、すぐに決める事はできないよ」
「それは…そうだよね。でも、『南のお告げ所』の力があれば、ボクたちみたいな、病気で苦しんでいる人や、残りの命の少ない人を、沢山救ってあげる事もできるかもしれないよ」
「スキルを戦争に使われる可能性だってあるよね。それに、エレンもあたしも、スキルを使い続ければ、結局おフクロと同じになっちゃうよ」
「ガキども、つまらん議論は充分か。では言わせてもらおう。俺は得心がいかん。優秀なメイドを雇用する機会を横取りされるのは解せん。メスガキだけで回せるほど暇な店舗経営をするつもりはない」
「ラ、ラフロイグちゃん、今はそんな話を持ちかけるタイミングじゃないよ…」
「いえ、突然なお話で驚かせてしまって申し訳ありませんでしたね。結論は急ぎません。もし、少しでも気にしてもらえるのなら、時々『南のお告げ所』を訪ねてください。わたしたちは、常にあなたがたを歓迎しますよ。…さて、それでは、みなさんのお望みの話でしたね。転生されたい、というのはどなたですかな?」
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