アイラさんは男の娘に転生したい。

ぼを

第1話:あたくし、男の娘になりたいんですの!(その1)

「ねえ、キルホーマン。あたくし、男の娘になりたいですわ!」

「…は? おとこのこ…ですか?」

「そうよ、男の娘ですわ。あなた、執事のくせにご存知ないの?」

「アイラお嬢様、執事だからといって、世間のすべての事を把握している訳ではございませんよ。それに、私は『元執事』なんですからね」

「あら、あなたの特殊スキルを使えば、わからない事なんてこの世の中にないのではなくって?」

「お嬢様、勘違いされている。私のスキルは『あらゆるものを数値化して確認できる』です。初対面の方の年齢とか、身長とか、体重とか、そういうパラメータを相手に悟られずに確認する事はできますが、今までに聞いたことのない言葉の意味は分かりませんよ。それで? 『おとこのこ』というのは?」

「はいはい、わかりましたわ。説明いたします。男の娘、というのは、つまり『まるで美少女のような外見を持った男の子』の事ですわ」

「ん~…なんだかよくわかりませんね。要するに、お嬢様は男性になりたいのですか?」

「男性…かと言われると、ちょっと違うような気もしますけれど…。あたくしは、美少女のような美少年になりたいの!」

「なるほど、やはり、男性になりたいのですね」

「…男性…。やっぱりなんか違うような気もしつつ…でも、そうですわ! そういう事なのです」

「やれやれ」

「なんですの!? またどうせ、あたくしがバカな事を言い始めた、と呆れているんでしょう!」

「呆れているかどうかはご想像にお任せしますが、でもまた一体どうして、その『男の娘』になりたいなんて思ったのですか? 私が言うのもなんですが、お嬢様はわざわざ男の娘にならずとも、充分お美しいでしょうに」

「あなたも、世相という物に疎いようですわね。時代が、世間が求めているのは、もう普通の美少女なんかじゃないのですわよ。ご存知でしょうけれど、ちょうど今の季節は、各地でお祭りが開かれるでしょう?」

「ああ、そうですね。ブドウの収穫の季節ですから、しばらくは各地でお祭りが催されますね」

「そうですわ。で、祭りのイベントと言えば、音楽、歌、ブドウ踏みですわね?」

「ブドウ踏みはいいですね。地域で選ばれた一番の美女が音楽に合わせて踏むのは、一興だと、私でさえ思うのですから」

「ですわよね? ブドウ踏みに選ばれた女性は、まさにアイドル。その年は色々なイベントに招かれたりと、これでもかとチヤホヤされるそうじゃねぇですか」

「ふむふむ」

「それで、ですわよ。このアイドル界に今年は革命が起きているそうなんですの」

「…革命…ですか。なんだか雲行きが…」

「ふっふっふ。そうなのですわ。とある村で行われた収穫祭で今年選ばれたアイドルは、なんと、男の娘だったそうなのです」

「ほほう…。それはまた、なんというか…。よほどの美少年だったのでしょうなあ」

「もちろんですわ。なにしろ、名だたる美少女達を押しのけて、男の娘が選出されたのですから。時代はもう、普通の美少女なんか求めていなくってよ。女装姿が圧倒的に美しい少年が誰よりも何よりもチヤホヤされる時代の到来ですわ。だから、あたくし、男の娘になりたいんですの! 男の娘になって、チヤホヤされたいんですの!!」

「なるほど…。でも、お嬢様は端麗な女性でらっしゃいますから、どう転んでも男の娘にはなれないのでは?」

「だからぁ、あたくし、男性になりたいんですの!」

「やはり、男性…ですか。でも、どうやって男性になればいいんでしょうねえ」

「キルホーマンでもご存知ないのですわね…。あたくしは、この世界のどこかに、女性を男性に、男性を女性に変える事ができる特殊スキルを持った人物がいると見込んでいますわ」

「なるほど…特殊スキルで…ですか。いやしかし、そんな人がいますかね」

「鈍いですわね。だから、そのスキルを持った人を探す旅に出たい、って言っているのです」

「旅に…? お嬢様が…? どうか、お気をつけていってらっしゃいませ」

「もう! 執事のあなたも一緒についてくるのは当然の務めでしょう? それに、あなた先ほど、あたくしの事を美しいとかぬかしやがりましたけど、あたくしが容姿の事でどれだけ悩んで来たか、あなたは知らないのではなくって? 化粧なしでは外を出歩く自信なんてないんですから。だいたいあなた、あたくしのスッピンをご覧になった事なんかないでしょう?」

「いやはや…これは御無礼。私はただ、正直に美しいと申し上げただけで…。それに、お嬢様は発育の方も…」

「ちょっと! 特殊スキルであたくしの胸のサイズを調べるのはやめてくださるかしら!」

「おっと失礼。そんなつもりはなかったのです。しかし、もうお嬢様も立派な大人です。今から男の娘を目指すというのは、いささか…」

「あたくし、まだ16歳…」

「いけませんね、お嬢様。私には、パラメータの確認ができるのですよ? お嬢様は18歳。つまり、立派な成人という事ですね」

「もう! 大っキライ! キルホーマンの特殊スキルなんて!」

「おやおや、そんな口の利き方をされては、旦那様が悲しみますよ」

「『元旦那様』ですわよ! あたくしたちは、勘当されてしまったのですから」

「勘当されたのはお嬢様だけ、私は無関係ですよ」

「む~! でも、あたくしに付いて来たじゃないですの!」

「その通りですよ。私は別に、あのまま旦那様の許にいても良かったのです。だいたい、お嬢様の生活費は、その元旦那様から私が頂戴しているのですから」

「それは…感謝していますけれど…」

「聞き分けの良いお嬢様は好きですよ。まあ、年齢の事はさておいて、まずは情報を集めに街に出ようじゃありませんか」

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