第145話 政変に加担する僕
「さすが年の功というか、色々と物知りですよね。ユグド教国の政争なんて初めて知りましたよ」
「そんなものは私も全く興味がないし知らんぞ、適当にかまをかけただけだ。まあ、一つだけ捕まらない盗賊団や証拠の手紙を綺麗に保管していたところなど怪しいところは沢山あったからな。それより、私たちも聖都に向かうぞ。私たちのバイコーン馬車はまだ表に繋いであるようだし急がなければな。色々と準備も必要だぞ」
僕たちはバイコーン馬車に乗り込み聖都を目指した。山道でスピードが出せなかったせいもあり徹夜で走ることになったが、朝方には聖都に辿り着くことができた。
「とりあえず飯を食って現地の下見に行くぞ」
ここ数日あまり眠れていなかったので正直眠りたかったのだが……適当に食事を済ませた後、大聖堂がある区画に向かった。
「それにしても聖都は広いですよね……未だに大聖堂が見えませんよ」
「大聖堂は大昔に作られたものでさほど大きくはないからな。歴史的遺物で普段は立ち入ることも難しい場所だ。ほら見えてきたぞ」
ルアンナが指さす方向には城壁があり、その中に建物が見える。外壁は青白いレンガで出来ており非常に美しい建物であるが、確かに思ったほどの大きさではない。
「色々と意外ですね。大きさもそうですが、イリス教の大聖堂みたいに簡単に入れると思っていましたけど、壁でしっかり守られていますし侵入も難しそうですね」
「昔は壁もなかったが、ユグド教の聖地に指定したことから、今では教会の一部関係者しか入ることのできない場所になってしまっている。不法侵入するだけで極刑らしいぞ。ここまで来ると騎士の巡回も多いな……」
鎧を着こんだ騎士たちが二人一組で数百メートルごとに闊歩している。これでは問題を起こせばすぐに他の騎士も集まってくるだろうし侵入は難しそうだ。
(騎士団の金色の鎧カッコいいな。いかにも聖騎士って感じだな……)
(鉄の鎧を着ているのが騎士で金色の鎧を着ているのが聖騎士かな? ユートピアでもあんな感じで分けてみようか)
騎士と聖騎士の違いはよく分からないが、恐らく才能がある騎士を特別に訓練されたのが聖騎士だろう。騎士十組に一組程度の割合で聖騎士が見回りをしているがその迫力はかなりのものだ。
「まずは巡回の騎士をこの場から遠ざけなければな。貴族街が大聖堂の裏手か……ここからだと大聖堂が邪魔で魔法が使いにくいな。よし、チェイス君が東から私が西から入って攻撃することにしよう。警備は厳しいだろうが大聖堂周辺程ではないだろう。見つからんように適当に攻撃した後にこの場所に集まるか」
「相変わらずの大雑把な計画ですがそれしかなさそうですね。でもこの綺麗な街並みを壊すのは罪悪感がありますね」
「気にするな。どうせ次の貴族になった者が新しい屋敷を建設するはずだ。場合によっては大聖堂も破壊するからな」
貴族街を破壊するだけでもまずいのに大聖堂を破壊してしまったことがばれたら戦争になりそうである……
その後それぞれで現地を散策後、宿を取り少し休むことにした。
周囲が夕焼けで赤く染まるころ、町の様子が慌ただしくなってきた。馬に乗った騎士たちが次々と貴族街へと向かっていく。その後ろには冒険者らしき者たちが続いていく。道行く人々はその光景を物珍しそうに眺め、その中の幾人かは野次馬のように騎士たちの後について行っている
騎士団、冒険者、領民からなる列は貴族街の前で一旦停止した。騎士の一人……騎士団第四分隊長のアルフィが列の方へと振り返り、腰から取り出した書状を読み上げる。
「これより我ら騎士団は騎士団大隊長イーデンの指示のもと、己の欲望のため聖都の秩序を乱す貴族に対し捜査を開始する。騎士たちは班ごとに捜査を開始! 冒険者たちはこの区画に何人たりとも近づけるな! そして領民たちよ! 貴族たちの不正を目に焼き付けるのだ! さあ! 行け!」
アルフィの指示により騎士たちはそれぞれが担当する屋敷へと向かっていった。騎士たちが動き出したのを確認して、僕とルアンナも動き出した。
貴族街周辺には周辺からどんどん人が集まってきており、人ごみに紛れるには好都合な状況だ。
(確か革新派の屋敷は……)
(俺が場所を指示するからチェイスは魔法に集中しろ! まずはあの趣味の悪い赤い屋根の屋敷だ)
オッ・サンが指さす方向にある赤い屋根の屋敷に向け極大の火魔法を放つ。火球は屋敷の真ん中に命中し大きく燃え上がった。
「なんだ!? あっちでは火事だぞ!」
「保守派によるクーデターか!?」
今まで興味深く騎士たちを眺めていた人々も目の前で爆発が起こったことでパニック状態に陥ったようだ。あちらこちらで悲鳴が上がり、逃げ惑う人々で大混乱の状況になっている。
僕は逃げ惑う人々に紛れ、革新派の屋敷に次々と魔法を放っていく。西側からも大きな爆発音が聞こえることからルアンナもうまくやっているようだ。
(これだけやれば充分だろう。大聖堂の前に行ってルアンナと合流するぞ)
(大混乱だね……逃げ遅れて倒れている人も沢山いるし……)
あちらこちらから火の手が上がり、逃げる人々に押し倒されたり踏まれたりしたのかあちこちに怪我人が倒れこんでいる。貴族街からも僕たちが火を放った影響なのかあちらこちらから悲鳴が聞こえてくる。
ルアンナとの集合場所に向かうと既にルアンナは待機していた。
「遅いぞ。だが、いい感じにあちらこちらで騒動が起こっているな。さすがに大聖堂の検問所には騎士が残っているが、強行突破と行くか!」
「検問所の騎士は僕がやります! 先生に任せると絶対殺しちゃうでしょ!」
「別に問題はないと思うが……チェイス君がそういうなら任せるぞ」
腰袋から木製の弾を取り出し、騎士のあご目がけて放つ。木製といえどもかなりの速度で放つため、気絶させることくらいは充分に可能である。
弾は狙い通り騎士のあごに当たるとその場に倒れこんだ。恐らく気絶したであろうが、念のため横を通り過ぎる際に雷魔法を追撃で食らわせておいた。
検問所を超え大聖堂がある敷地の中に入る。敷地の中一面に広がる緑の芝生と咲き乱れる花々、中央には噴水が設置してあり、綺麗な水が噴き出している。
「綺麗な場所ですね。さすが大聖堂というか聖地というか……」
まるで天国のような光景に見とれていると突然ルアンナが噴水に向かって魔法を放った。
「敵ですか!? 全く気配を感じませんでしたが……」
見えない敵に備えて臨戦態勢をとる。
「いや、いつも私が払っている治療費がこの庭園の維持費に使われていると思うとイラっとしてな。一回の治療で金貨数十枚は取られるんだぞ……」
「そんなことで魔法を放たないでくださいよ……」
(ユグド教の治療費はえげつないもんな……イリス教なら十分の一以下なのにな……)
「今まで払った治療費を考えると宝物の一つや二つ持って帰らんと気が収まらんな! 早く宝物庫に行くぞ!」
大聖堂の正門のドアは開け放たれており、外からも中の様子がうかがえる。奥が礼拝堂になっているようで、中央には世界樹を模したオブジェが飾られている。世界樹のオブジェは綺麗な色をしているが魔金属なのだろうか?
「誰もいませんね……法王とか枢機卿とかがいると思っていましたけど……」
「遺物であって執務を行う場所じゃないからな。使われるのは年に数回の儀式程度だと思うぞ。恐らく普段の管理でたまに人が来る程度の場所だ。それより、イグドに魔力を込めてもらっていいか? 確かそれが鍵になっていたと思う」
「イグドって何ですか?」
「その金属でできた世界樹のことだ。ユグド教ではイグドと呼んでいる」
イグドと呼ばれる世界樹のオブジェに手を添え魔力を注ぎ込むと、イグド後ろの床が空き中に階段が作られた。
「魔道具を使った仕掛けだ。普通は何人もの魔力を注がないと作動しないがチェイス君なら一人でも充分だったな」
階段の中からはひんやりとした少しカビ臭い空気が上がってくるのを感じる。恐らく滅多に開けられることもないのだろう。地下への入り口には灯りの魔道具が設置してあり、ボタンを押すと地下の空間に明かりがともった。階段を下ると地下とは思えないほどの高さがある空間が広がっていた。空間には大きな扉が一つと沢山の像が置かれている。
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