第119話 囚われの僕


 目が覚めると後ろで手を縛られていた。暗く地面が揺れていることから恐らく馬車の中であろう。


(目が覚めたか……やはりチェイスの意識がなくなると俺の意識もなくなるようだな。寝ているだけなら大丈夫なんだがな……)



(完全にやられたね。魔法もあのレベルで使えるなんて予想外だよ。やっぱり剣士対策の魔道具は常に持っておかなきゃ……ちゃんと準備していても勝てるかどうか分からないけど……)


(魔道具は馬車の中に置いたままか……シエルが回収していてくれると助かるんだがな)


(シエルは無事かな……傷は大したことないと思うから逃げていてくれるといいんだけど)


(そうだな……それよりその腕輪は……)


(多分魔法を封じる腕輪だと思う。魔力が乱されている感じがするんだよね)


(魔法が使えないのか?)


(正直全く問題なく魔法が使えるんだよね……)


 風魔法を使ってみたが特段問題なく使えてしまう。魔力制御の際に若干抵抗があるような気がする程度だ……


(詠唱魔法とかで魔力制御している人は魔法が使えなくなるかもしれないが、魔法制御が得意なチェイスにとっては特に問題なしか……)


(だから逃げようと思えばいくらでも逃げられるんだけど……シエルが捕まっている可能性もあるし、下手に逃げるのもどうかなって思うんだよね……)


(確かにな……もう少し様子を見てもいいかもな。わざわざ生きて連れて行くんだ。相手側も何らかの目的があるはずだしな)


 馬車に揺られること二日、馬車は大都市に到着したようで当たりの様子が騒がしくなってきた。


(やっと目的地に着いたようだな。いい加減待遇改善とまともな飯を食わせてもらわんと……)


 この二日、食事はパンとスープのみで馬車が止まった際に騎士の男が運んできてくれたが、両手が後ろで縛られているため床に這いつくばって食べるしかなかった。トイレについては一日数回連れて行ってもらったため最低限の人としての尊厳は保たれた。


 騎士のラルクは近衛騎士団長だったことから恐らく連れてこられたのは王都であろう。大通りのような騒がしい場所を通り過ぎ、再び静かな場所に入ったと思ったら馬車が停止した。


「着いたぞ。降りろ」


 降ろされた場所は暗い地下牢のような場所だ。魔灯がいくつかあるおかげで視界は確保されているが、それでも暗く、ジメジメとした居心地の悪い場所である。


「地下牢ですか? 処刑されるわけではないようですが、これから僕はどうなるのでしょう?」


「私たちはお前をここに連れてくるよう命じられただけだ。この後のことはまた王から命令があるだろう。そこの牢がお前の場所だ。縄をほどくから腕を出せ」


 久しぶりに後ろで手を縛っている縄を解いてくれた。ずっと手が後ろに回っていたので体が凝って仕方なかったので助かった。当たり前だが、腕輪までは外してくれなかった。


「一緒にいた女の子はどうなりましたか? 捕まったのは僕だけみたいですので解放されたんですかね?」


「団長が気に入って連れて帰っていたからな。今頃どうなっているかはわからんな」


 騎士たちは下種な笑いを見せながら答えた。


 シエルのことだから隙をみて僕を助けようと考えていると思うが……どうなっているのか少し心配だ。


「看守! 新しい囚人アルヴィン・イースフィルを連れてきた。あとのことは頼んだぞ!」

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