第103話 古代遺跡を探索する僕

 その小さな背丈には不釣り合いな大きな藍色の帽子に同じく藍色のローブを着たホビット族の魔法使いリラが突然僕の前に現れた。


「相変わらず忙しそう。今日は冒険者ギルドからの依頼を持ってきた。古代遺跡の調査だが是非チェイスに協力して欲しい」


 幼くかわいらしい顔には似合わない相変わらずのぶっきらぼうな口調である。


「僕に依頼なんて珍しいですね。しかも古代遺跡の探索なんて……めちゃくちゃ面白そうじゃないですか! すぐ行きますよ!」


「まだ作業中みたいだがいいのか?」


 エイブラムの命を受け、オリジンの町の建設工事を行っているところだがこんなものは後回しだ。


「古代遺跡って聞いたら黙っていられないですよ! 早速向かいましょう!」


「待て待て、チェイスはせっかちすぎる。私も依頼に同行するつもりだが、二人だけだと戦力不足の可能性もある。できれば剣士も何人か誘いたい」


「そんなに難しい依頼なのですか? そもそも副ギルド長のリラさんが直接調査に行くなんて珍しいですね」


 リラはまだ十代前半に見える程の幼い見た目であるが、冒険者ギルド副ギルド長という肩書を持つ立派な冒険者である。


「今ギルド長は首都オルレアンに行っているから私が問題の処理を行っている。古代遺跡を発見したまでは良かったが、遺跡を守るゴーレムが強すぎて並みの冒険者じゃ突破できなくて困っている」


「ゴーレムってあの土や岩の体の怪物ですか? ゴーレムって実在したのですね」


 ゴーレムは様々な物語に出てくるが、どの作品でも魔獣ではなく魔法使いが操る土人形として描かれている。


「魔獣かどうかは分からないが、とりあえずゴーレムと呼んでいる。体が土や岩でできているから普通の剣士じゃ全くダメージを与えられなくて困っている」


「それで直接リラさんが赴くわけですね。優秀な冒険者ならロックさんと……クリスを呼びましょうか!」


 ロックはBランクの冒険者で斧を武器として使いとても威力の高い攻撃を放てる。ゴーレム退治にはぴったりの人材だろう。クリスは一応E級の冒険者であり、攻撃力はそこまでないが剣の腕前はかなりのものである。


 クリスは今回の依頼に特別必要な人材ではないが、万が一サボりがエイブラムにばれて怒られることになったとき、一人で説教を受けたくないのでついでに呼ぶことにした。


 古代遺跡と聞いてロックはノリノリで承諾してくれたが、クリスは仕事をさぼってエイブラムに怒られることに抵抗があったのかなかなか承諾してくれなかったため、無理やり引っ張って連れて行くことにした。


「ああ……絶対エイブラム様に怒られるよ! 今度こそ本当に死ぬまで働かされるかも……」


「古代遺跡で何か大発見をすればエイブラム様も許してくれるよ。もしかしたら古代の魔道具……アーティファクトなんかも出てくるかもしれないし、クリスも遺跡には興味あるでしょ?」


「そりゃあ僕も興味がないと言ったら嘘になるけど、僕たちはペガサス狩り失敗っていう前科もあるからね……」


「今度こそ成功するから大丈夫!」








 遺跡調査を渋るクリスを説得しながらも古代遺跡に向かって歩を進める。今回遺跡が見つかったのはオリジンから南西にある地点であり、歩いて二日がかかった。


「恐らくあれがゴーレム。」


「全く動きませんし岩の塊みたいですね。後ろの小さな社みたいなのが遺跡ですかね?」


 二体のゴーレムは前傾にうずくまっており動く気配は全くない。


「生き物っぽくはないしあれが動くとは思えないけどな……もし動くとしたら魔道具の可能性もあるけど……」


「うだうだ考えていても分からん! 近づけば動くんだろ?!」


 ロックがいつも通りの脳筋ぶりを発揮して斧を片手に突進していく。ロックが近づいたことでスイッチが入ったのか、岩の塊は立ち上がりロックに向けて手を振り下ろした。思った以上にゴーレムの動きは早く、攻撃がロックに命中したように見えたが、ロックは紙一重でゴーレムの攻撃を避けるとそのまま飛び上がり、ゴーレムの頭部分に強烈な一撃を食らわせた。


「固っってえな! 多少の傷は入ったが全然効いてないぞ!」


 ロックはゴーレムの頭を蹴り上げ、一旦距離を取った。


 ドラゴンさえ切り裂きそうなロックの一撃を食らってもゴーレムは全く気にするそぶりも見せない。これは確かに剣士が相手では荷が重いかもしれない。


「一定の距離内に近づかなければ攻撃されないようですね。僕が魔法で攻撃します」


 距離を取ったことで再び動かなくなったゴーレム目がけて極大の土魔法を放つ。剣や斧ではダメージを与えられないゴーレムも僕の魔法には耐えられなかったようで、頭部が粉々に崩れ去った。全く動きがないので分からないが頭を吹き飛ばしたのでもう動くことはないだろう。


「俺の斧もさすがに魔法の威力には負けるようだな! さっさと遺跡の探索に入るか」


 ロックが遺跡の入り口に近づくと倒したと思ったゴーレムが再び動き出しロックに強烈な一撃を叩き込んだ。


ロックは大きく吹き飛ばされ木に叩きつけられてしまった。


「ロックさん!」


「大丈夫だ! あばらが何本か持っていかれただけだ!」


(お約束の展開だがあばらが持っていかれるのは全然大丈夫じゃないと思うがな……)


(前僕もあばらがやられたことあるけど動けないくらい痛かったもんね……まあ、ロックだから大丈夫でしょ……)


 ロックのことは気にせずゴーレムに再び土魔法を叩き込む。リラもお得意の風魔法で攻撃し、ゴーレムは全身がばらばらに吹き飛んでしまった。


「さすがにこれでもう動くことはないかな? 再生することは……ないよね?」


 バラバラになったゴーレムに近づくが今度は動き出すことはなかった。


「本当に何だったんだろう……バラバラになったゴーレムの体はどう見てもただの岩だし……魔法陣を使っている様子もないか……」


 クリスがゴーレムの体の一部を拾い上げ調べているが、全てなんてことはないただの岩のようだ。


「どう見ても魔獣じゃなさそうだけど、魔道具でもなさそうなんだよね? 誰かが魔法で操っていたわけでもないよね?」


「ゴーレム本体からは魔力を感じたが誰かが操っている様子はなかった。私は魔道具だと思ったが違うのか?」


「どう見てもただの岩ですし、魔道具はありえないですね」


 クリスが頭を抱えて悩んでいるがこれ以上考えても無駄なようだ。


「今考えても分からなさそうなので、遺跡の中を探索してみましょうよ。何かヒントがあるかもしれませんし」


(それよりロックは大丈夫か?)


 ゴーレムの謎に夢中で完全にロックのことを忘れていた……ロックが吹き飛ばされた方を見ると、ロックは目をつぶり座り込んでいた。


「ロックは自己治癒をしているから邪魔をするな。さすがBランクの冒険者だ」


「ロックさん治癒魔法まで使えるんですか!? 本当に何でもできますね。でも治癒魔法が使えるなら何かあったときも安心ですね」


「多分ロックは人の傷までは治せない。それは完全に魔法治療師の領域。自分の体を治せるだけでも充分すごいが」


(本当になんでもできるやつだな。チェイスも使えればいいんだが……どうせ体内魔力のコントロールができないからって理由で使えないんだろうな。本当にかわいそうな奴だ)


(多分そうだろうけど、うるさいよ!)


「じゃあ遺跡探索は明日にして今日はここで休みますか。クリスもまだゴーレムを調べたそうだしね」


「うん。時間があるならもうちょっとじっくり見てみたいかな。僕は魔道具の観点から調べますのでリラさんは魔法の観点から調べてもらってもいいですか?」


「分かった」


 二人でゴーレムの体を調べだして僕は一人暇になったので夕食を調達しに行くことにした。


(チェイスっていつもボッチになるよな……二人組を作って~とかのイベントがなくて本当に良かったよな)


(…………)

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