第79話 エイブラム・フレイス

 冒険者ギルド長のアーロンたちが到着してしばらくたったころ、商業ギルドと建設ギルドから人が派遣されてきた。まずは先発隊として商業ギルド五人、建設ギルド十人が派遣されてきたが、それを率いてきたのが元王族、現公爵家の次男エイブラム・フレイスであった。


 エイブラムたちが開拓基地に到着してからは、エイブラムと新冒険者ギルド長のアーロン、その補佐リサ、そして僕の四人で都市構想について話し合っている。


「僕としては上下水道の完備と広い道路だけは譲れないですね。できれば先に道路と上下水道を整備してその後に少しずつ建物を作ればいいと思いますけど」


「それだと費用回収までに時間がかかりすぎるぞ。そもそも初期投資の費用をどこから持ってくるのだ? まずは町の計画図を作り土地を販売して、資金作りをした後に上下水道と道路の整備に着手すべきだろう」


「……ではそれでお願いします」


「それにまずは耕作地の確保をしなければ食料を外から輸入する必要がでてくるぞ? 魔獣が多すぎるので耕作地の周りも外壁で囲まなければいけないのが金銭的にもつらいところだが最重要課題だな。あと資源が全く足らん! 既に鉄や石灰、粘土がありそうな場所は発見しているということだが、早く採掘を始めないと、いちいち外から資源を持って来ていてはいくら資金があっても足らんぞ」


「当面の資金についてはオルレアンで融資を募る予定です。年利十パーセント程で債券を発行すればそれなりの金額が調達できると思います。当面の間の返済は土地売却の資金でどうにかなると思いますので何とか都合を付けながらやりくりしていきましょう。土地の販売にしろ、食料や資源の確保にしろとにかく人手が足りないのがとにかく問題ですね……」


「そのあたりは俺に任せておけ。資金繰りにしろ、人手集めにしろ、コネが重要だからな」


「お願いします。僕は魔法で建設などの実務を補助しますので」


「ああ、それが一番資金の節約になるからな。五十日以内には人手も集めるからそれまでに仮設住居の準備だけは頼んだぞ」


 エイブラムが優秀で本当に助かった。エイブラムはまだ三十才前とのことだが、公爵家の跡を継げる立場ではないため、若くして商会を立ち上げ、今ではフレイス共和国を代表する程の商会に育て上げたほどの実力派だそうだ。


(当面は自転車操業だな……開拓地の新産業を早く軌道に乗せないといずれかの時期に破綻してしまうぞ……俺たちは建設実務を担当しながら世界樹の根の発見にも力を入れるぞ)


(エイブラムが優秀すぎるからある程度任せておいてもいいだろうしね。開拓基地の基礎工事があらかた終わったらアーロンとリラと一緒に遠征に出ようか)


(あとはなるべく世界樹の根が近場にあることを祈るしかないな)


 開拓基地の建設工事は急ピッチで進んでいった。僕は魔法で地盤を固めて建物の基礎を作ったり、木材の準備をするなどして建設ギルドの手伝いを行っている。


 ほとんどが雑用のような仕事ばかりであるが僕の魔法があるのとないのでは建設スピードが何倍も変わるそうだ。コンクリートや鉄などの材料がそろえば外壁作りも始めるらしいが、大量の材料が必要となるため後回しとなっている。


 商業ギルドや建設ギルドから大量の人員を派遣してもらったこともあり、結局たった数十日の間で何百人も生活できるだけの簡易的な町が完成してしまった。今の時点で実家のイースフィルより発展してしまったかもしれない。


「本当に数十日程度で町を完成させるとはな。こっちの人手集めと資金集めも順調に進んでいる。開拓農民は二百人程募集があってな。いつでもこちらに寄越せるが、農地の準備はどのくらいでできる?」


「一人当たり千平米、いや余裕を見て二千平米必要として四十万平米、道や家も必要ですから六十万平米くらいですか……外壁は既に完成しているのでそのくらいでしたら治水まで併せても四十日はかかりませんね。確か治水計画書はできていましたよね?」


「あ、ああ……もうできているが……本当に化け物だな……ではすぐに開拓農民は手配する。とりあえず今年は芋でも育てさせておいて秋から麦を育てさせるか」


「農民たちの今年分の食料はどうするのですか?」


「とりあえずは輸入しようと思う。農民とその他労働者の食費だけで年間で金貨二千枚以上はかかるからな。融資は既に金貨二万枚ほどは集まったが利息の支払いだけで年間金貨千枚だ。一つ間違えるだけで首をくくるはめになりそうだな」


 エイブラムは笑いながら言うが笑えない冗談だ。


「その時はエイブラム様も道連れですよ」


「確かに違いない。まあ、なんとなくだが、そうはならない気がするから大丈夫だろう」


 エイブラムの手配した開拓農民たちは僕が開拓を終わるころに到着した。皆広い畑と自分たちの家が手に入ったことで大喜びであるが、僕としては二百人もの命を預かる立場になってしまったことでプレッシャーが半端ない。


(一つ間違えたら僕だけじゃなくて、この人たちみんなの首が飛んじゃうね……)


(そう考えると何千人、何万人もの領民を抱える貴族のプレッシャーってのは半端ないだろうな。貴族になればウハウハだと思っていたが、上に立つものの責任までは考えが至っていなかったな……)


 とんでもないプレッシャーはかかるものの開拓事業は徐々に軌道に乗り始めた。

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