第10話 厄介

“皇国の興廃この一戦にあり 各員一層奮励努力せよ”


 これは、日本がだ『大日本帝国』と称し『軍隊』を持っていた時代、某大国との決戦に際して士気を鼓舞する為に使われた言葉だ。


『興廃』とは『繁栄するか、すたれるか』との意味合いなのは言うまでも無いが、ここで一つの矛盾が生じる。


 先の言葉は、弱小国の軍隊が大国の軍隊に挑む時に使われたもので、ある意味『頑張らないと負けちゃうぞっ!』……と言う意味を包含ほうがんしている。


 ところが……だ。


 衛鬼兵団は『無敗の最強兵団』だ。 『興』はあっても『廃』は有り得ない…… 


 つまり、が使う言葉では無いのだ。


「作戦参謀!」……俺は挙手して、発言を求めた。


「今、貴官が引用した言葉は『常勝』の、我が衛鬼兵団には不穏当ふおんとうと思いますが如何でしょう?」


「……総司令閣下のご指摘通り、この言葉を使うのは衛鬼兵団創設以来、初めてだ」

と作戦参謀が言った。 誤用ではないらしい。


「それじゃあ、今次戦は我々が敗北する可能性がある……って事ですか?」

 と俺が言うと……


「……正確に言うと『我らが勝利しても結果的には敗北と同義となる』……だ」



 ……


 ……意味が判らない……。


「……今回の戦いは、そんなに難しいんですか?」


「戦い自体はシンプルなのだが、厄介な点がある」


 厄介……?


「我々が勝利すると、この宇宙全てが消滅する」


 ……と作戦参謀がサラッと言ったので、なんとなく聞き逃してしまいそうだったが……


 こいつ、今……とんでもない事を言ったぞ!

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