第8話『戦場《いくさば》』

 情報参謀と朔也くんは揃って俺たちに敬礼した。 あれだけ激しい戦闘をしたのに二人とも、ケガどころか息切れひとつしていない。 ……さすがだ!


 情報参謀が佐奈ちゃんに……


矢主やぬしさま……朔也殿どのは実に強い! ……わたくしめが対戦した中でも最強レベルの実力をお持ちです」……と言ったのち、佐奈ちゃんに意味深な視線を送りつつ……


「オフェンスに於いてですが……」と告げて、再び頭を下げた。


 オフェンスのみ最強レベル? ……妙な言い方だ。 しかも、佐奈ちゃんだけに向けたメッセージのようだ。


 ……!


 そうか!


 オフェンス……『攻撃』のみなら最強だが、ディフェンス『防御』……つまり、佐奈ちゃんを護りながら戦うのは難しい……という事を、暗に伝えているんだ!


 すなわち『付いてくるな!』……と……。


 ……佐奈ちゃんは、やはり頭の良い子だ。 情報参謀が伝えたかった事を瞬時に理解したようだ。


 ……佐奈ちゃんは目に涙を溜めながらも、殊勝に笑顔を作り、情報参謀に……


「……わかりました。 私、たいら総司令のご命令通り、受験勉強しながら皆さんのお帰りを待ちます。 ありがとうございました!」……と言って丁寧にお辞儀した。


 ……それと同時に、こらえていた涙が重力にあらがえず、ポロポロと地面に降り注いだ。   

 

 それに気付いた朔也くんが、すかさず佐奈ちゃんに駆け寄り、ポケットからハンカチを取り出して、そっと差し出したではないか! ……俺がこの前ユイに言った言葉が聴こえてたのかな?


 佐奈ちゃんは予想外の出来事に驚いていたが、朔也くんの優しい笑顔にうながされ、ハンカチを受け取って目頭を押さえた。


 情報参謀は、佐奈ちゃんにリアルな戦場いくさばの一部を見せる事により、朔也くんの超人的な強さと、佐奈ちゃんが『足手まとい』になってしまうという事実を暗黙のうちに理解させたのだ。


 ……俺は改めて情報参謀に感謝を伝えたのち、衛鬼兵団前哨基地に向かうべく、司令徽章に、佐奈ちゃん以外のメンバーの転送を命じた。

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