第3話 懇願

「あっ、思い出しました」


 鷹音ようおんさんの表情が、パアーッ……と明るくなった。 「社長室に、小さめですが七夕飾りがあります。 そちらに結びましょう」


 ブッ!……と、危うく彼女に吹きかけてしまいそうな所を、間一髪で、手で抑えた。


「いや、社長室はご勘弁頂けませんか? おそれ多いですよ!」 ……と、俺は必死で固辞した。


「大丈夫です! 私が責任を持って、大切に飾らせて戴きますので」と、俺の短冊を自分の胸に当て、両手で包み込んだ。 俺は、過去最大規模の、『一生のお願い』を念じた。『神様、仏様、一生のお願いですから、あの短冊にして下さい!』


「で、ではお言葉に甘えて、『オジカ事務用品』の総意として、お納め下さい。」


「はい、つつしんで、頂戴致します」


 二人で頭を下げ合い、同時に顔を上げ、お互いに目が合いニッコリと笑い合った。


 短冊になる夢は叶わなかったが、それより遥かに嬉しい出来事だ。 俺の中で『使い果たした』と思っていた『幸せ』は、まだ残っていたんだ! ……と確信した。


 こうして、俺と鷹音ようおんさんの『第5種接近遭遇』……すなわち『直接対話』は笑顔で幕を閉じたのであった。

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