第46話 私が傷つけた二人の女性
私は、1990年、バイトで貯めたカネで大学三回生の夏休みに、カリフォルニア州のサンディエゴで一か月語学留学をしている。その時にクラスを担当してくれたのがジョアン先生だった。彼女は、イギリス系とベルギー系の血を引いた白人女性である。彼女は、生まれと育ちが、サンフランシスコでヒッピーの洗礼を受けていた。年は、私より10年上。
彼女は変わっていた。クラスで、みんなにグミを配ってくれたのだが、彼女の分を床に落としてしまった。しかし、彼女はそれを床から拾い上げパクっと口の中に入れた。生徒たちが「ああー、ジョアン!」と声を上げると、彼女は、「私の胃は、強いのよ」と言って笑った。
ジョアンは、歌手のオリビア・ニュートンジョンに似ていて、綺麗だった。ある日、授業のあとトルコ人がジョアンと話をしていたのを見た。彼女はクラスでは明るかったが、眉間に皺を寄せて髪を手櫛にしてかき上げていた。一体、あれは何だったのだ思い、次の日に私もクラスのあとに彼女と話をすると離婚寸前だという。
旦那さんは、エジプト人のエンジニアで、結婚するときにお父さんから黒人と結婚するなどとんでもないと言われたが、彼女は意志を貫き通した。しかし、旦那が浮気して、にっちもさっちも行かないようになった。しかし、彼女は旦那の事がまだ好きで、離婚する踏ん切りがつかないと言う。
私は、ソープランドは知っていたが、恋愛経験はなかったのでアドバイスすることができなかった。ただ、魅力的な彼女と話をすることは、内容以前に嬉しいことだった。語学学校での一か月は、あっと言う間に終わってしまった。世界中から生徒がきているから、国際的な雰囲気があった。ただ、ジョアンと縁が切れるのが寂しく、思い切って文通を申し込んだ。
すると、学校のアドレスに送ってくれと言われた。私は、帰国してサンディエゴの風景を描いたポストカード、ギターで作った曲を録音したテープ、そして、私の近況などを手紙にしたためて学校に送った。彼女は、生真面目な人で授業で忙しいにも関わらず、必ず手紙を送ってきてくれた。それは、とても嬉しいことだった。
そういう関係が二年続き、私は大学を卒業して会社に入り、一週間の夏休みにまた会いたいと手紙を送ると、彼女も休暇をちょうど同じ時期に取るので、一緒にニューヨークに行くことになった。私は、サンディエゴでの語学留学の一か月、寮に前半二週間入っていたが、後半二週間は白人の家にホームステイしていた。
ホームステイ先は、旦那さんは弁護士で、奥さんは教育関係の仕事をし、娘は地元の州立大学に通っていた。お兄さんもいるのだが、彼は独立して会社で働いていた。そして、この家には、ラオスから来た女性が二人養女として住んでいた。そして、夕食時には、ゲイのカップル、白人と黒人のハーフの女性、内科医の奥さん、語学学校の同級生で、コロンビア人の精神科医などが集まり、毎晩パーティーになっていた。
ただ、このラオス人の女性のひとりリューナが、私の境遇を羨ましく思っていたようだ。親に金出してもらって大学行って、語学学校に来るなどもってのほかだと思っていたと思う。彼女は、私に恋人がいるかと聞くので、いない、と答えると、彼女の男友達を呼んできて、キスはこうするんだと言って、ブチューとやって私の反応を見ていた。ただ、私は無反応であった。
時間の軸をもとに戻すと、待望の夏休みが来た。私とジョアンの家に泊めてもらえた。私にとって、彼女が初めての素人であった。彼女を抱いて思ったのは、白人って白いなという事である。もちろん、私は憧れのジョアンを抱けてことのほか興奮したし、彼女も旦那に浮気されて寂しい思いをしていたのか、かなり乱れた。
翌日、夕食時にホームステイ先に二人で遊びに行った。案の定みんなでワイワイやっている。そんな中、リューナが私を彼女の部屋に招き入れた。あの白人のレディは、誰だと聞く。英語学校の先生だよ。今から、ニューヨークに行く予定だと言った。彼女は、驚いた表情を見せた。
夕食パーティーが10時ごろに終わって、「帰るわよー」とジョアンの彼女の声がした。リューナは、ホームステイしていた時とは、うって代わって、優しく私と会話してくれた。それが嬉しかったものだから、ステイ先のマザーに今晩、ソファで寝ていいかと聞いた。いいわよ、言われた。それでジョアンに今晩は、この家に泊めてもらってソファで寝ると言った。「分かった」と言って彼女は車でホテルに帰って行った。
翌朝、テーブルでリューナとステイ先の娘デビーとコーヒー牛乳を飲みながら、雑談をしていると、ジョアンが車で私を迎えに来るのが窓から見えた。それで、二人に、バイバイを言って、ジョアンの車に乗ると、「私はバカじゃない」。何?ちょっと、待ってくれ!俺は、リューナなんかと寝てないぞ!、ソファーで寝たよ!と言っても信じてくれないのである。
私は、リューナの策略に
ジョアンの車で彼女の家に行き、サンドイッチを食べていると彼女は電話すると言った。誰に電話するのかと聞くと、浮気しとる旦那にと。それで、ジョアンは、途中で私に彼と話をしてほしいと言った。分かったと言うと、彼女は電話をかけた。彼女は数分話し、ハイ、代わってと言われたので、「ジョアンは俺がもらった。二度と電話してくるな」ときつく言って電話を切った。
私は、おとなしい人と大抵の人には思われている。豹変した私を見てジョアンは、驚くとともに頼もしい男を見る目に変わった。しかし、彼女は、私がリューナと寝たことは事実であると信じ込んでいる。また、今になって思えば、ジョアンには、可哀そうなことをしたなと思う。旦那に浮気され私に浮気され。
FBIだのCIA だのの嘘発見器にでもかけてもらえば、信じてもらえるかもしれない。ただ、彼女は結果を見ても、精神を統一して嘘がバレないように練習してきただろうと疑うような人なのである。そんなこんなで、とりあえず、ニューヨークまでは行ったが、リューナと寝ただろう、いや寝ていない、リューナと寝ただろう、いや寝てない。
ニューヨークの観光もシラけたものになってしまった。ただ、ジョアンには悪いが、私はリューナの言っていた、アジア同盟。これは、大事やと思うねんね。それから、私が二週間のステイでリューナに対して何の興味を示さなかったも悪かったと思う。こいつ東南アジアの貧乏人の養女だからとも思っていた。もっと、リューナを大切に扱ってあげれば良かった。そうすれば、ジョアンも傷つける事はなかったのである。
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