第44話 ショック

 これは、私が通っていた大学三回の晩秋の話である。ロシア語のクラスを取っていたのだが、私の一つ前の席に別嬪べっぴんさんがいつも座っていた。最初彼女は、私を見ても何の印象もないようだったが、そのうちだんだんと変化し、私を見ると頬を赤らめるようになった。


 私には、コンプレックスがあった。背は高いのだが、体がとにかく細いのである。何とかしようと思い、ダンベルを買ってアーム・カールをしたり、腹筋、スクワットをし、市立体育館のベンチプレスなどもして、飯も母親に肉を食わせてくれと頼み、がつがつ食っていたのだが、どうしても筋肉がつかない。


 だから、こんな痩せっぽちを、彼女が好いてくれても釣り合わないと思っていた。彼女の様子を見かねた私の隣の男子学生には、お前、彼女に声をかけろよ、今度、レストランに行って食事しようとか、映画に行こうとか何でも良いんだよ、と言われた。そんな、ある日彼女は化粧を濃くし、派手なイヤリングをしてきた。


 ついに、私は決心した。声をかけようと。しかし、校内で声をかけるのは、人目があるので、彼女が下車する駅で声をかけようと考えた。彼女は、大阪の阪急梅田駅で降りた。すると、電車の前方から逞しい男がこちらを見ていた。そして、彼女はその男性に向かって手を振り、満面の笑みで駆けて行った。

 

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