第14話

 日曜日なのにいつもより早く起きたのは緊張のせいもあったのかもしれない。考えてみたら、私は奥谷君とずっと同じクラスだったのに休みの日にこうして会うのは初めてなんじゃないかなって思うな。買い物をしている時に見かけたことは何度かあったけれど、約束をして会うというのは今まで一度も無かったんだよね。何度か誘ってみたいなって思ったことはあったんだけど、どうしても勇気が出なくてその一言が言い出せなかったんだ。こんなチャンスをくれた梓ちゃんには感謝してもしきれないけど、なぜか山口も一緒に来ることになったみたいだった。

 奥谷君と二人っきりだったら一番好きな服を着て会いに行こうと思ってたんだけど、山口も来るならそこまで気合入れて会いに行くのも浮いちゃうかもしれないよね。山口って普段どんな感じの服を着ているのかわからないけど、二人の邪魔をしないようにしてくれたらいいな。でも、山口って空気を読めないからそんな事を思っても無駄かもしれないよね。


 待ち合わせの時間の少し前に小学校近くの公園についたのだけれど、私よりも先に奥谷君が待っていた。近くを見ても山口の姿が見えなかったので何か用事でも出来たのかと思ってたんだけど、奥谷君が山口は先に喫茶店に行っているって教えてくれたんだった。どうして先に行っているのかなと思っていたんだけど、日曜日の喫茶店は家族連れで混雑していて満席に近い状況になっていた。


「本当なら俺が席を取っておけば良かったんだけどさ、山口が一人で迎えに行って何かあったら困ると思ったんだよね。あ、宮崎って私服だとなんか感じが違うね。いつもより明るい感じかも」

「ありがと。でもさ、こんなに混んでるなら他の店でも良かったのにな。私はどこでも良かったんだよ」


 なんだろう、奥谷君が私の事を無理矢理褒めようとしているのが透けて見える。きっと奥谷君は私の事を好きとかそういう目線で見ているのではなく、味方につけておくために必死に褒めたような感じがしていた。それでも、奥谷君が私を見てくれたという事実は嬉しかった。

 何度か通っているので喫茶店が小学校の近くにあるのは知っていたのだけれど、私は一度も中に入ったことは無いのだった。何となく、中学生や高校生では中に入りづらいというか、コーヒーを飲めないのに喫茶店に入るというのは少し気後れしてしまっていたのだ。ただ、この喫茶店の手作りケーキが美味しいというのは知っていた。お土産で頂いたこともあったし、梓ちゃんからもお勧めされていたりもしていたのだ。


「この時間でも結構混んでるんだな。山口が先に席を取っておいてくれて良かったよ。えっと、どっちに座ろうかな」

「私はこのパフェを食べたら帰るから奥谷はこっちに座るといいよ。私の隣が嫌で宮崎の隣が良いって言うんならそっちでもいいけど、そうなると私が返った後に二人が隣同士に座ることになるけどさ」

「え、山口はそれ食べたら帰っちゃうの?」

「そうだけど。私がパフェ食べ終わった後にも残らないといけない理由でもあるの?」

「そう言うわけじゃないけどさ、せっかく幼馴染がこうして集まったんだから積もる話もあるだろうし、ゆっくりしていこうよ」

「幼馴染って、私は奥谷と遊んだことがあるけどさ、宮崎と遊んだことなんて無いわよ。今までクラスが一緒だっただけで仲が良いってわけでもないしね。宮崎は私に何か言いたいことでもあるの?」

「そうだよね。私達って話したことも数えるくらいしかないし、何か言いたいことってのは特にないかも。でもね、聞いておきたいことはあるんだ」

「何?」

「あのさ、山口さんって、誰かと一緒に何かをするよりも一人で行動する方が好きなの?」

「どうだろう。私は気にしたことなかったけど、言われてみれば誰かと一緒に何かをするよりも一人の方が好きかもしれないわね。あなたはクラスの他の人達より私を見てるから知っていると思うけど、私って人と接するのが苦手なのかもしれないわ。でも、あなたは気付いていないだけで私にも友達はいたりするのよ」

「ええ、山口って友達いたのかよ。全然気付かなかった」

「なんで奥谷がそんなに驚いているのよ。別に友達がいたっていいでしょ。それとも、私に友達がいたらおかしいっていうのかしら?」

「おかしくはないけどさ、俺は山口が誰かと遊んでいるところとか見た事ないからな。学校で誰かと話しているのだって一年の時に河野と何か話していた以外は先生くらいしか話してないんじゃないか?」

「一年の時って、なんでそんな事を覚えているのよ。もしかして、奥谷って私の事を監視していたの?」

「いやいや、そうじゃなくて、中学の時も浮いていた山口が河野みたいな感じの人と話していたのが印象的だっただけだよ。なあ、宮崎も山口が河野と話してたの見たら印象に残るよな?」

「確かに、山口さんと梓ちゃんって性格も趣味も反対っぽいし、その二人が話していたら印象に残るかもしれないけど、私はそんな事全然知らなかったな。梓ちゃんと話している時も山口さんの話題が出てきた事って無かったしね」

「そりゃそうだろ。山口と河野って全然タイプが違うもんな」

「もう話は終わったかしら。私は頼んでいたパフェも食べ終わったし、そろそろ帰ろうかと思うんだけど」

「ちょっと待ってくれ。山口ってさ、西森と揉めたことあっただろ。その後って西森から何かされたりしてないか?」

「何かってなによ。私は西森から謝罪を受けたし私も西森に言い過ぎたことを謝罪したわ。それでその件は全部解決しているけど、何かあるのかしら?」

「解決してるって、お互いに納得してるって事なのか?」

「逆に聞くけど、お互いに納得しないで解決する方法があるなら教えて欲しいんだけど」

「そうなんだ。それならいいんだけどさ、あともう一ついいかな?」

「それで最後ならどうぞ」

「西森の件が解決しているとして、若林とか吉原たちに何かされたりしてないか?」

「ああ、その人達なら帰りに何度か話しかけられたりはしたわね。でも、私には相手をする理由が無かったから無視してたんだけどね。それがどうかしたの?」

「無視って、そんなことして何ともないのか?」

「何ともないからこうしているんじゃないかしら。それとも、奥谷は私に何かあってほしかったって思っているわけなのかな?」

「いや、何もなかったならいいんだけどさ。本当に帰っちゃうのか?」

「ええ、午後から用事もあるしね。それじゃあ、お先に失礼するわ。それと、一ついい事を教えてあげるわ。この喫茶店の紅茶も美味しいからケーキだけじゃなくて紅茶も楽しむといいわよ。紅茶なら長い時間いても大丈夫だと思うしね」

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