第15話

 山口が先に帰ったのは意外だったけれど、奥谷君とこうして二人だけの時間を作ることが出来たのはとても嬉しかった。奥谷君は落ち着かない様子でソワソワしているのが面白く感じていたのだけれど、私も自分で思っているほど落ち着いてはいなかったんじゃないかと感じていた。一口飲もうと思って紅茶を見てみると、少しだけカップの中の紅茶が揺れていたのだから私も緊張して震えていたようだった。


「奥谷君も恋愛アプリって使ってるの?」

「ああ、使ったことはあるけど、最初の一回以外は何もいじってないかも」

「私もそうだったんだけどさ、奥谷君って白岩君とかとメッセージのやり取りとかしないの?」

「え、もしかして、宮崎は俺の事をホモだと思ってて好きな相手が頼之だと思ってるのか?」

「違う違う、違うよ。あのアプリってさ、両想いじゃなくてもポイント貰えるサービスがあって、それに私が奥谷君を招待したんだけど覚えてないかな?」

「そう言えばそんな事があったかもしれないな。すっかり忘れてたよ。ごめんな」

「大丈夫、気にしてないからさ。でさ、そのサービスを使ってやり取りすると結構ポイント貰えたりするんだよね。貯まったポイントで買い物とかも出来ちゃうし、結構使える店も多いから奥谷君も試してみたらいいんじゃないかな」

「試してみたらいいんじゃないかなっていうけどさ、俺はLINEも面倒であまり使ってないんだよ。そんな奴でもポイント貯まったりするのか?」

「結構貯まるよ。知らないうちにお小遣いくらい貯まってたりするからね。でも、男子ってあんまりやり取りとかしたりしないもんなのかな」

「どうだろうな。人によると思うんだけどさ、俺は頼之とも朋英とも学校で会った時くらいしかやり取りしてないんだよね。なんか、文章にして送るのって面倒でさ。俺はあんまり国語の成績もよくないし作文が苦手ってのもあるんだけど、そもそも携帯をいじってる時間ってあんまりないかもな」

「うーん、それじゃあポイントはあまり貯まらないかもね。でもさ、何気ないやり取りでもポイントが貯まっていくのって結構楽しかったりするよ。ポイントが貯まって交換出来ますよって連絡が来たらちょっと嬉しいからね。それにさ、言葉だけじゃ忘れちゃうこともあるからメッセージでやり取りするのもいいと思うよ」

「そうだな。でもさ、何となくメッセージをやり取りするのって面倒なんだよな。言葉で伝えるのって難しいって思うんだよな」

「じゃあさ、私が奥谷君に色々とメッセージを送ってもいいかな。ほら、山口さんの事とか協力出来ることあるかもしれないからさ」

「それなら俺も使うかもしれないな。幼馴染としても山口の事が気になるし、やっぱり宮崎っていいやつなんだな。昔から困ってる人を見捨てられないいやつだと思ってたよ」

「今は何にもないけど、これからどうなるかわからないしね。亜梨沙ちゃんたちは何もしないと思うけど、何かあったらちゃんと教えるよ」

「ありがとうな。何もないのが一番とは思うけどさ、万が一って事もあり得るから頼むわ。俺も信太たちが変な事をしないか見張ることにしているからな。お互いに情報を共有しような」


 さっきまで緊張していたように見えた奥谷君が山口の事で協力すると言った途端に笑顔になったんだけど、それって奥谷君が山口の事を好きだってことじゃないよね。もしそうだったとしたら、私は山口の事で本当に協力してもいいのかな。奥谷君の気持ちが山口に向いているんだとしたら、それって私にとってよくない事をしようとしているんじゃないかなって思えてきた。

 でも、嬉しそうな奥谷君の笑顔を見ていると私はとても嬉しい気持ちになれた。あの笑顔が山口の事で生まれた笑顔だとしたら、それを全部私に向けさせることが出来ないかな。私のためにもそうやって笑顔を向けて欲しいな。

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