第2話 私の生活

「お父さん、おはよう」

「ミル、今日は少し早く出る。支度をしなさい。」

「はい」


 私の名前はミルという。苗字はない。

 父は花屋をしている。いつも朝から市に行く。私も8歳になった頃から早く仕事を覚えるようにと一緒に行っている。


 家族は父子ひとりだ。父・ジョセフは緑の髪に瞳も緑だ。ジョセフはイケオジだが不愛想でいつもピリピリしているので私は苦手だ。私が前世持ちじゃなく普通の子供だったら父に甘えたりして、こんな父でもデレデレになっていたのかな?

 自分が普通ではないことには父に申し訳ないと思うが、苦手は苦手だ。


 そう私は、見た目は子供、中身は大人というどこか聞いたことのあるようなフレーズが出そうだが、ちょっと違う。今は幼い子だが中身は52歳で死んだ宇津瀬うつせ 美玖みくという前世の記憶があるだけの一般人である。頭がよかったということもなければ、なにか秀でた才能があったわけでも、すごくなにかに未練があったわけでもない。

 ただのおばさんだった人だ。



 この世界は、イースリッドという。精霊王ヒースの信仰があり、それによってこの世界が回っている。らしい。

イース教なるあやしい団体や自然神教など同じ一神教にも関わらず、色々な宗教が混雑している。それは前世と同じだなとミルは思う。


 私が生まれた国は、ルクセルボルン王国という。

現王は第86代目マクシミリアン・ルクセルボルン国王。歴史ある王国だ。

国が認めて信仰しているのは精霊王ヒースのみである。らしい。


 私が住んでいる所は王都の近隣の街でユロランという。すこぶる田舎ではないが、私の地域は下町といったところで、花屋も小さなお店だ。父と子でやっと食べていけるぐらいでしかない。人の出入りは有るため花などの娯楽でしかないものでも商売が出来ている。



「ミル、おはよう。今日も市か?」

 声をかけてきたのはお向かいの雑貨屋を営んでいる3男のルーイだ。

「おはよう、ルーイ。そう市に行ってくる。ルーイはこんな朝早くどうしたの?」

 ルーイはきれいな金髪で青い瞳をしている。将来はイケメンだろう。

「オレも今日から父さんと市に行く。うちは雑貨屋だからミルの家みたいに毎日じゃなくて助かったよ」と笑っている。

「いいなぁ。毎日こんな朝早いのは眠いよ。」

 私とルーイが話をしていたら父・ジョセフが借りてきた馬車で近づいてきた。

「ミルそろそろ出発するから」

「はい。ルーイまたね」

「ああまたな。しかしミルのオヤジはいつ見ても迫力があってこえーな」

 ルーイの最後の方の言葉はジョセフが聞こえないほど小声だ。


 ジョゼフは大柄なうえ、不愛想だ。

しかし、顔が整っていたため、母が亡くなったあとは縁談が絶えなかった。それをジョゼフはすべて断っている。周囲は今だに亡くなった妻を愛しているのだとほっこりしていたが、そのしわ寄せはミルにくるのだ。

私はさっさと再婚してほしいと思っていた。

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