猫の名探偵 ~消えた鰹節~
黒巻雷鳴
1
昨夜から夜明け前のちょっとまえまで、車の外では春の嵐が凄かった。
おれが寝床にしているこの車は廃車とはいえ、大雨や
それでも、今回の春の嵐はヤバかった。
強風で飛ばされてきた〝なにか〟がリアドアの窓ガラスにぶち当たり、おれの専用出入口がよりいっそう大きくひび割れた。これで腹回りを心配することなく、今後は気楽に飛び出せるだろう。
その確認よりも先に、殴りつけるような雨が後部座席を覆う
春の嵐が去ったいま、おそるおそる肉球に体重をかけてシートを押すと、コーヒーに浸した食パンみたく雨水がじわっとにじむ。最悪の気分だ。
おれがそうやって何発目かのパンチをシートに浴びせかけたとき、アメリカンショートヘアのサイモンが
だが、後部座席に着地したのと同時に雨水の歓迎を受けてしまい、前後の足はもちろん、腹の毛までずぶ濡れになってしまった。
「うひゃあああああっ!? 冷めてぇぇぇぇっ!」
おれは思わず、旧友の失態に
「おいサイモン、なかへ入るときはノックくらいしろっていつも言ってるだろ? これがその理由のひとつさ」
そう言い残して、おれは助手席のシートのてっぺんに飛び乗る。雨粒で飾られた外の景色は、きのうよりも澄みわたってとても
「ノックしたって、キミはいつも寝てて起きないじゃないか。それよりも
サイモンは濡れた前足を舐めつつ、いまにも泣き出しそうな顔でおれを見上げる。
「なんだよ、一大事って。とうとう去勢でもされるのか?」
「そいつも確かに一大事だけど……違う、違うんだ! 助けてくれよ、肉三郎!」
「だから、なにを助けて欲しいんだ?」
慌てるサイモンは、前足を
仕方がないので、おれは冷静にさせようと、助手席のてっぺんから後部座席のサイモンめがけて飛び上がる。と、
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