ボクは眼球をささげる、昏い目をした君に
白雨 浮葉
プロローグ 『色って、何イロですか?』
――7月31日。
今日が僕の命日である。
僕はその日を海で過ごす。もちろん、隣にいる少女と二人きりで。
鎖骨までまっすぐに髪を伸ばし、整った顔立ちとは相反したクライ表情を浮かべる少女。
「そんな顔をしないで」
「シグ……」
僕が頭を撫でると、少女は僕の名前を呼んだ。
「これ、もらっていくよ」
少女の手に握られた思い出の品を受け取り、僕の頬が緩んだ。
「君はちゃんと僕以外の友達を作ること。信頼できる親友。そして、大切にできる恋人。そんな素晴らしい人たちに囲まれながら、陽気でお淑やかな女性になるといい」
少女は涙を止めない。壊れた機械のように、涙を流し続ける。
「シグがいなくなって、ボクは……ボクはどうすればいいの……」
「忘れないでいてくれれば、いいよ。それだけで」
少女は鼻をすすりながら、目尻の水滴を拭き取った。
僕は少女に近づく。少女も僕に近づく。互いが互いを望み、顔だけがゆっくりと近づく。
僕も少女も、目を閉じない。彼我で一つだと言いたげに、互いの瞳を眼球に刻み込もうとする。それが決して消えない入れ墨――いや、刺青になったとしても。
海面を漂う小波があくびをしそうな速度で、唇がゆっくりと近づく。それを海は笑う。
その時、激痛が走った。眼球が抉り出されるような、逆に押しつぶされるような、鋭痛。
声は上げない。
意識が、遠ざかっていく。ボヤけた視界がさらにボヤけ、瞳の上にすりガラスでも置かれたように霞んでいる。
眠気が押し寄せるような、意識が、命が刈り取られるような、感覚。
意識が段々と乖離していき、僕の命の焚き火が音もなく消え去ろうとする。
狭まる視界、遠くなる意識。クラクなる世界。
それを照らす一筋の光に縋るように、僕は誓う。
【僕は眼球をささげる、クライ目をした君に】
僕——
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――――――。
――――。
――。
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