第59話親友

「待ってたよ。大ちゃん!」


「え? ワタナベ!?」

目を凝らすと、目の前には渡邉がいた。


「元気だったかい?」

渡邉が微笑みながら言った。

しかし、よく見ると少し大人びて見える。


「ワタナベ、見ないうちに老けたね!」

身長もいくらか伸びただろうか。まだ僕の方が高いけど。


「そっか。まだ記憶が全部戻って無いんだね?」

記憶とは、夢の中でのことだろうか?


「断片的にだけど、夢に出てくるのは僕の記憶なのかな?」

渡邉に聞いてみる。


「正確には違うんだけど、おおむね合ってるよ。どこまで思い出した?」

どこまで? 夢は断片的にしかみれない。判断に難しい質問だ。


「約束の地に行くところまでかな?」

疑問系で返す。


「そっか……そのうちぜんぶ思い出すよ。……時間も無いから本題に入るよ?」

時間がない? なんで?


「僕はもうこの世にいない。大ちゃんの目の前にいるのは、保存された僕の記憶を機械で再現したものなんだ。もう、少ししか電力も残ってないんだ。」

渡邉が死んでる? 理解が追い付かない……


「僕は今の世界がどうなってるかはわからない。ここから動けないからね。でも、大ちゃんがここにいるってことは、世界の危機が迫っているって事なんだ。」


「わからない。わからないよ、ワタナベ!!」

だんだんワタナベが薄くなっている。終わりが近いのだろう。


「そのうち嫌でもわかるからーー大丈夫だよ。」

ーー僕は涙を流している。

親友との別れがこんな形になるなんて……


「最後にお願いがある。カナンを連れて行って。最後の一人なんだ。きっと大ちゃんの役に立つよ!」

ワタナベの隣には白いワンピースを着た黒髪の女の子が立っている。試験管の中にいた子だ。


「それじゃ大ちゃん! さようなら! あとは任せたよ!」


「ワタナベ!! まって! まってよ!!」


ーーまた目の前が真っ白になる。

僕が動揺しておかしくなったのか……

意識を失っているのか……

ただ光が強くて見えないだけなのか……

気づいたら、僕はブルーフォレストの森にいた。


「あの……」

隣にいた百合にそっくりな子ーーカナンが不安そうに僕を見上げている。


「ごめん……もうちょっと、待って……」

涙が止まらないーーもう、アイツとバカ話はできないのかーー


「う……ううん……あれ? ダイさん? どうしたんですか?」

マァムさんが僕に尋ねる。

近くに倒れていたみたいだ。


「なんでも……ありません……帰りましょう!」

無理やり笑顔を作ってマァムさんとカナンに言う。

顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだーー


「はいーーだいじょうぶですか?」

マァムさんが聞いてきた。


「ええ! 問題ありません!」

二人に顔が見えないように先頭を歩く。

これ以上女に涙は見せられない。


「あの……ダイさん……街は反対方向です……。」


ーー


「なんだよ……これ……」

僕たちは街に戻ったーー正確には街があった場所に戻ったーー


「そ……そんな……」

街は焼け野原になっていた。


「ーーなんだお前ら! こんな場所でなにしてる!!」

兵士の格好をした男に話しかけられた。


「あ、あの……僕たち、いま街に戻って来たんです……何があったか教えて下さい。」


「ああ、お前ら知らないのか。魔族にやられたんだよ。先月のことだな。侵攻が速くて沢山死んだよ……いまは王国軍が押し返してるからいいが、お前らも南に逃げた方がいいぞ!」


そんな……ここは北のクルム領でも安全な場所だったはずなのに……


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