第57話約束の地
「ねぇ渡邉?」
「なに? 大ちゃん。」
「どこに向かってるのか、教えて貰えないかな?」
僕たちは渡邉の車に乗って安全な場所なるところに向かっている。
「あと二、三時間で着くから、もうちょっと待って。」
渡邉はこう言って目的地を教えてくれない。
今は高速道路を北上していて、もう少しで秋田県に入る。
ちなみに百合は隣で寝ている。
かわいい寝顔だ。
ーー渡邉から説明を受けたあと着の身着のまま出発してから既に六時間は移動している。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「今から出発するから。荷物は最低限にしてね。」
渡邉が例のごとくふざけた事をぬかしやがった。
「あのさワタナベ! 僕にだって生活はあるし、そんな急に引っ越す訳にはいかないんだよ。」
「ああ、大丈夫だよ。代わりに生活してくれる人がいるから。」
そう言って渡邉は僕の家から出ていき、停めていた自分の車から男性を連れてきた。
ーー冴えないおっさんだなぁ……て、あれ!?
「紹介するよ。彼は松本大。大ちゃんの代わりになってくれる人だよ。」
意味がわからない。
僕の目の前にはボクがいて、僕の代わりにボクの生活を送ってくれる?
だめだ頭が混乱してきた。
「よ、よろしくお願いします。」
「……」
僕がボクに握手を求めると、ボクは何も言わずに握手に応じた。
「彼は無口だけど、大ちゃんの生活パターンは叩き込んであるから心配いらないよ。仕事も代わりにこなしてくれる。」
「ごめん渡邉、説明してよ。何で僕がもう一人いるの?」
「あれ、言ってなかった?」
聞いてないぞ!
「彼は大ちゃんの体毛から造り出されたクローンだよ。」
体毛!? クローン!?
「なに勝手に非人道的なことやってくれてるの? これ犯罪じゃない!? つーかそんなこと出来るの!?」
「色々まずいよ。だから秘密裏に進めているのさ。」
あの時か! 僕が百合を貰った日に渡邉がチン毛が欲しいとか言ってたからあげたんだった。
「あのさ! 親友だからってやって良いことと悪いことくらいあるよね!? それくらいわかるでしょ!?」
「こんな僕をまだ親友と呼んでくれるのか……ありがとう、大ちゃん!」
なんだ渡邉、気持ち悪いぞ!
この気持ち悪さ、高校以来だ。
「まぁ、渡邉が大丈夫って言うなら、最後まで付き合ってやるよ! こうなればどうにでもなれってんだ!!」
僕はパチンカスらしく困ったら自暴自棄になるのだ。
負けている時は最後の千円まで突っ込んでしまう。
「良かった……百合もはやく準備してくれ。大ちゃん、お金も携帯もいらないからね。」
「もう準備できてます。」
百合はピンクのネコっぽい動物のぬいぐるみを抱えている。
僕は着替えと家族写真だけ持って渡邉の車に乗り込んだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「やっと見えて来たよ。ほら。」
渡邉が車を運転しながら進行方向を見て言う。
「えっ!?まさか、目的地って山の中なの!?」
目の前には広大な森が拡がっている。
ってここ、白神山地じゃん!
ーー
林道を走ること数時間、もはや自分が森の中のどこに居るのかわからない。
車を走らせること数時間、やがて目の前に岩壁が見えてきた。
渡邉が車の中からリモコンのような物のボタンを押した。
ゴゴゴゴゴ……!!
「おいおい、世界遺産になんてもの作ってんだよ!」
岩壁が左右に開いて、トンネルが出てきた。
「仕方ないだろ、広くてばれにくい場所なんて、他に思い当たらなかっただから。」
いくらかけてるんだろう。
もしかして渡邉は富豪なのか?
渡邉は車でトンネルの中に入った。
ゴゴゴゴゴ……!!
入り口が閉まって真っ暗になる。
車のライトを付けてゆっくりと進んでいく。
隣を見ると百合はまだ寝ている。
やがて目の前に大きな扉が見えた。
渡邉は車から降りて扉の横のボタンを押す。
すると扉が音を立てて開いた。
「二人とも、ここからは徒歩だよ。車から降りて!」
僕は百合を起こすと三人で扉の中に入った。
「なんだ、何もないじゃん。」
扉の中は大きな部屋になっている。体育館くらいの大きさだろうか。
「こっちだよ。」
渡邉が部屋の中心に歩いていく。僕たちは後ろからついていく。
中心についたら渡邉が床にはめられた板を外した。
すると中にボタンがあり、渡邉が押す。
ウイィーン
機械の作動音がして、床から何かがはえてきた。
「えっ? 百合!?」
床から大きな試験管が出て来た。
中は何かの液体で満たされており、百合ににた子が浮かんでいる。
「その子はイブラって言うんだ。この施設の管理者だよ。イブラ! 起きて!」
渡邉が言うとイブラが目を開けた。
「約束の地に連れていってくれ。」
イブラは頷くと、部屋全体が揺れ出した。
「ちょっと、なにが起こるの?」
僕は不安になり渡邉に聞いた。
「僕たちの研究施設に行くんだ。人類保管計画執行の地。僕たちは約束の地と呼んでる場所だよ。」
部屋の壁がプロジェクションマッピングのように草原の風景になった。
気づくと足元まで草が生い茂っている。
「ありがとう、イブラ。大ちゃん、百合、行くよ。」
僕たちは渡邉の後に続いて歩き出した。
「あれ!?」
気づくと本物の草原にいた。足の裏に草を踏みしめる感覚がある。
「ああ、イブラの力で幻覚を見せていたんだ。彼女が許した人以外はずっとあの部屋をぐるぐる周り続ける事になってるんだよ。」
ん?じゃあ僕たちはいつの間にか部屋の外に出ていたのか?
理解が追い付かない。
やがて地下に降りる階段が見えた。
僕たち三人は下に降りていく。
階段の下は、これまた広いトンネルになっている。
「これに乗って。」
渡邉が板に車輪がついただけの乗り物に乗るよう促す。
前方には操縦用のハンドルが取り付けられている。
「へぇー、意外と速いね!」
ヘンテコな乗り物の割にスピードが出る。少なくとも
自転車を爆漕ぎするより速いだろう。
それにしても長いトンネルだ。
歩いて行ったら半日近くかかるのではないか。
「もうすぐつくよ!」
渡邉が言うように目の前に行き止まりが見えた。
車両を停めると僕たちはエレベーターで下に向かった。
「ここを降りたら僕たちの約束の地だよ。」
「りょうかい。」
僕は疲れた。こんだけ移動しては感動も糞も無いだろう。
あまり期待せずにエレベーターが止まるのを待つことにした。
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