黒い太陽 ～Black my son～ 暗黒竜騎士ダイ マツモトの奇天烈オゲレツ冒険譚

第56話魔法剣

「で……でかい……」

オニの魔獣はこちらを睨んでいる。

「グルルルル……」

「マァムさん、下がって下さい！」

マァムさんはドームの入り口近くまで走っていった。

既に僕たちはオニの間合いの中にいる。

いつ攻撃されてもおかしくない。

何もしてこないのは、僕たちが脅威ではないと判断してのことだろう。

しかし、その目は獲物を逃がすつもりはないと言っているように見える。

「グゴオオオォォォッ！」

オニが僕に手を伸ばす。

ーー避けきれない！

「ぐあぁっ！」

ドカッ！ ドゴッ！

僕は横に吹き飛ばされた。

キリモミしながら二回地面にぶつかり、回転して立ち上がる。

「つつつ……」

あばら骨が何本か折れた。

捕まるよりは良いが、一撃でかなりのダメージを受けてしまった。

「怒りの業火よ！ 燃やし尽くせ！ ムカチャッカファイアー！！」

ドオォン！

マァムさんの魔法がオニに着弾した。

ーーしかし、体毛が焼けただけでダメージはほぼない。

僕は炎に包まれている間にオニに近づいていた。

「はっ！」

オニの足に一太刀入れた、が皮膚が厚過ぎて斬る事が出来ない。

「ちっ！」

僕は急いでオニとの間合いをとる。

「ダイさん、一度逃げましょう！」

そうしたいところだが、オニは逃がしてくれるだろうか。

ーーおそらくオニは遊んでいる。まだ本気を出していない。

僕は身体強化を全開にして再度斬りかかった。

「ゴワアアァァッ！」

オニの手が伸びてくる。

僕はジャンプしてオニの手を躱し、そのままオニの顔目掛けて斬りかかった。

ギィィイン！！

重力も利用した斬撃は頭を割ることができず弾き返された。

「のわあぁっ」

オニが頭を振ると、僕は後方に飛ばされ地面に叩きつけられた。

「ガアアァァッ！」

ーーまずい！

僕は上体だけ起こしたままオニの拳を剣で受け止める。

「ぐっ！……ゴフッ！」

口から血が溢れた。

内臓をやられていたのだろう。

「エアーカッター」

マァムさんの魔法がオニの顔に炸裂した。

ダメージはないがオニは嫌がっている。

「グルルルル……」

オニがマァムさんを見た。

標的が僕からマァムさんに変わってしまった。

「マァムさん！……逃げて！」

今の僕では助けられない。

「ファイアー！！」

オニの顔目掛けて放たれた魔法は、オニの手によって払われてしまう。

ーー駄目だ！……マァムさんは、やらせないぞ……！！

あの素晴らしい身体に傷を付けてはいけない！

僕は自分の中の魔力を爆発的に高める。身体のリミッターを可能な限り外していく。

「うりゃぁあああああっ！」

ザシュッ！

「マァムさんには指一本触れさせない！！」

僕の渾身の一撃は足の分厚い皮膚を破り、初めてオニにダメージを与えた。

「ガアアアァッ！」

オニが怒っているのがわかる。

足へのダメージも、ただの擦り傷だと言うように

二本の足でしっかりと立ち、僕に正対した。

「ダイさん、身体が光ってます……」

マァムさんが言うように、僕の身体の周りに淡く青白い光が見える。

僕の中の圧縮された魔素が身体から漏れ出したのだろう。

ーー消耗が早いな……

身体強化とは、毛細血管のように全身に伸びる魔力回路に圧を加えて魔素の循環を良くするものだ。

僕は自分の中の膨大な魔力を圧縮し、それを高速循環させている。

このまま続ければ命に関わって来ることくらい聞かなくてもわかる。

「すぐに終わらせてやる！」

僕はオニに高速で近づこうとする。

しかし、オニは防御に徹して上手く近付けない、

「ファイアー！」

ーー今だ！

ズバッ！

マァムさんの魔法に合わせて斬りかかる。

傷は浅いが、着実にダメージを与える。

ーー

「はぁっ！はぁっ！はぁっ！」

先ほどから数度同じように攻撃した。

しかし、オニはまだまだ元気だ。

このまま続けていけばいずれ倒せるだろうが、僕の方が先に力尽きるだろう。

ーーくそっ！ どうすれば……そうか！！

「マァムさん、僕に火属性魔法を撃って下さい！！」

「えっ！？何を言ってるの！？」

マァムさんがビックリしている。

「いいから！ はやく！！」

「どうなっても知りませんよ！！ 怒りの業火よ！ 燃やし尽くせ！ ムカチャッカファイアー！！」

マァムさんは上位の火属性魔法を撃って来た。

複雑な気持ちになったが、それでいい。

僕は自分の剣でマァムさんの魔法を受け止めた。

ゴオオォッ！

ーー熱い！！ でも、やれる！！

僕は自分から漏れ出した魔素を剣に伝えてマァムさんの魔法ごと包み込んだ。

「そっ、それは！ 魔法剣！！」

昔アナさんが自分に風魔法を使って素早く移動するのを見せてもらった事がある。

なぜ自分に被弾しないのか不思議に思っていたが、今僕がやっているのと原理は同じだろう。

「覚悟しろよ！ デカブツ！！」

僕はオニに向かって走り出した。

ーーこれで最後だ！ 全力でいく！

最後の力を振り絞り、全身に魔力を循環させる。

オニが慌てて手を振り上げた。

「エアーウォール！！」

背中から追い風が吹いた。風のカーテンが僕の背中を押す。

すれすれでオニの手を躱し間合いに入った。

「食らいやがれ！ 炎の剣（フレイムソード）！！」

ザンッッ！

縦に振るわれた剣によりオニの身体が大きく斬りさかれ、傷口から炎が噴き出している。

「ガアアアァァァッ！」

ドオォンッ！

たお……した……

「ダイさん！」

マァムさんが近づいてくるのが見える。

僕はその光景を最後に意識を失った。