第54話神への冒涜
「で、説明してくれるんだよね?」
僕は渡邉に威圧的に訪ねる。
「ああ、説明するよ。その前にーー」
渡邉はスタンプのような物を取り出した。
「なにそれ?」
「最近流行ってる謎の病気、あれのワクチンだよ。」
ーー最近テレビではよく謎の体調不良の話題がでる。
普通に生活している人が、急に苦しみ出して倒れていく。症状は様々で高熱が出たり心臓発作を起こしたり、死者も多数出ている。
ストレスが原因とされているが、その数は日に日に増えてきている。
「でも、あれってストレスが原因なんでしょ?ワクチンなんて、どうして必要なのさ?」
「世界は常に変化している。生き残るためには世界に合わせて我々も進化しなければいけないんだ。」
進化ってポケモンじゃあるまいし、中ニ臭い。
「怪しすぎるよ。あのゲームみたいに人体実験でもするつもり?」
「無理にとはいわないけど、これから先も百合といたいなら打っておいた方がいいよ。肩を出して。」
親友の渡邉が僕に害をなすなんて考え難い。
僕はしぶしぶ服を脱いだ。
「大ちゃん、全部脱がなくても……肩を出すだけでいいよ……」
そう言いながらも渡邉は全裸の僕の肩にハンコ注射をした。
「痛い!」
僕は注射が苦手だ。注射されたところを見ると、何かの紋章みたいに見える。
ちょっとカッコいい!
「じゃあ、本題に入ろうか。百合も聞いてくれ。」
洗濯物を畳んでいた百合も僕の隣に座る。
「近い将来世界は劇的に変わる。何もしなければ、僕たち人間は絶滅するだろう。」
「あの謎の病気が関係してるの?」
「ああ。僕はアメリカでストレスについて研究していてね、そこで異変が起きた。」
「異変?」
「今まで人々は趣味や休むなどをしてストレスを発散する事が出来た。しかし、最近になってそれが出来ない人が増えてきたんだ。」
「そんなの昔からいたじゃん。ストレスに弱い人が増えてきたって事でしょ?」
時代の変化というやつだ。世界の変化とは似て非なるものなのでは?
「そうじゃないんだ。ストレスが変化していてね。一度身体に蓄積したストレスは発散出来なくなってしまったんだ。」
「ストレスって気持ちの問題じゃ無いの? 脂肪みたいに身体に蓄積するの?」
「わからない。しかし何か目に見えない物が身体に溜まっていってるのは確かだ。」
「そうなんだ。」
「ストレスの感じる量や溜められる量は人によって違う。これから謎の病気で死ぬ人はどんどん増えていくだろうね。」
「それで、百合にやらせてたゲームとどう関係してるのさ?」
「百合にはストレスに強い人間を造って貰うんだ。」
ゲームと同じ事をリアルでやらせるということか?
「さっきのワクチン、あれをみんなが打てばいいじゃないか!」
「それは出来ないんだ。あのワクチンは大ちゃん専用に僕が作った物なんだ。一人一人の遺伝子を解析して作らないといけないから、間に合わないんだよ。」
「一つ作るのにどれくらいかかるの?」
「そのワクチンは、百合を大ちゃんに預けてから徹夜で作って一昨日完成した物だよ。」
百合を預かってから半年は経っている。世界の人口は七十億を越えている。確かに時間が足りない。
「でも、わたしがダイさんに預けられたのはどうしてですか?」
百合が発言した。
確かに百合を研究施設から僕の元に連れて来た理由がわからない。
「反対勢力があるんだ。神への冒涜だと言ってね。妨害工作が酷いから、準備が出来るまで匿ってもらったんだ。」
え? もしかして、百合を外に連れ出したら不味かったんじゃ?
「もしかして、百合は反対勢力に狙われてるの?」
ーー僕は一度だけ百合を動物園に連れて行った。
田舎の動物園だから大丈夫かな?
「おそらくね。だから、これから百合には安全なところに移動して貰う。」
「僕から百合を奪うつもり? 絶対に認めないぞ!」
「なに言ってるの? 大ちゃんも来るんだよ。」
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