第46話新しい日々

僕たちはその後自分の宿に戻って来た。

装備を外し、武器の手入れをする。

マイさんが居なくなったあの日、僕は頭がまっ白になった。

次の日冒険者ギルドに行くと、マイさんは一年間の休職依頼を出している事がわかった。

逆を言うとあと一年は戻って来ないと言うことだ。

いったい何がいけなかったのか。


ーーヒモ男だから?

それとも初めてなのに騎乗させたから?

はたまた僕が性病持ちだったから?

はたしてそんな些細な事で男をふる人がいるだろうか。


「僕にはわからないよ、マイさん。」

その日で松風の捜索は止め、ネズミ駆除で生活をつないだ。

僕が立ち直るには一ヶ月を要した。

決して僕がケチでマイさんの月謝を払い終わった宿にギリギリまで居たかったからではない。

本当に苦しかったのだ。


ーー強くなろう。強くなって、僕から離れて行ったみんなを見返してやる!


そんな思いで街を出た。

むかうのは北だ。

強い魔獣を倒し、肉体的にも精神的にも成長するために。

そして今の街に辿り着いた。

最初は大変だった。

魔獣はスライムやゴブリンなどのファンタジー感溢れるものもいるし、熊やイノシシなどの見慣れたものも大型種ばかりだ。

現地の魔獣駆除に詳しい人を頼ろうとするも、暗黒竜騎士ダークドラゴンナイトという聞いた事もない職業の僕を迎えてくれるパーティーもなかなかなかみつからない。

そんな中、僕に声をかけてくれたのがパパスさんとマァムさんだ。

なんと二人も曰く付きらしく、なかなかメンバーが見つからなかったようで、魔獣駆除を一人でやっているところ声をかけられた。

ーーリーダーのパパスさんは戦士で今年で五十になる。


二つ名は自在槍フリーランサーだ。


自由に自分の槍を突きまくる事から名付けられた。

武器は片手剣だ。

え? 何故槍を使わないかって?

彼は自分の槍(ムスコ)をフリーに使うのだ。つまりヤリチンだ。


マァムさんは魔法使いで女盛りの二十五歳の美人さんだ。

二つ名は魔法使い狩り《童貞キラー》だ。


その美貌から童貞キラーという二つ名がついたと思っていたが、どうやら違うらしい。

彼女のターゲットは魔法使いおっさんなのだ。

この街に魔法使い、つまり三十過ぎの童貞はいない。

すべてマァムさんに狩られたからだ。

なんでもおっさんが自分に組伏せられる様が興奮するらしい。


二人と組んだおかげで僕まで他の冒険者から奇怪な目でみられる事になった。

やれやれだぜ。


そうして僕たちのパーティーはブルーフォレストで魔獣を狩りつつ日銭を稼いでいる。

ネズミ駆除の方が稼ぎは良いが、魔獣が強い分自分が強くなっている自覚はある。

今の目標としては魔族領の魔獣を倒す事だ。

戦争中だが僕は黒髪なので魔族領でも気づかれる事はないだろう。

いつか魔族領奥地に生息するドラゴンを倒し、ドラゴンキラーの称号を手に入れたい。

ーー僕は武器の手入れを止め、寝る準備に入った。



次の日の朝ーー


「おう、来たな! それじゃ行くか!」

二人はすでにギルド前で待っていた。


「おはようございます。今日もよろしくお願いしますね!」

僕は笑顔で言った。


「おはようございます、ダイさん。今日も元気いっぱいですね!」

マァムさんに聖母のような笑顔で挨拶された。

きれいな金色の髪が日の光を浴びて輝いて見える。

性癖が歪んでいなければ完璧なのに、もったいない。


「よし、少し休憩するか!」

パパスさんから休憩の許可がおりた。

今はこの世界での十月に当たる。

だいぶ涼しくなって来たが、日中動くとまだまだ暑い。


「リンゴ採ってきたのでみんなで食べましょう?」

マァムさんがリンゴの木から風魔法で実を落として持ってきてくれた。


「ありがとうございます! いただきます。」

ここブルーフォレストでは野生でリンゴがなっている。

この森は魔素が強いらしく、色々な草花が生えている。

そのため魔獣が多く、まれに街まで降りてきてしまうので、近くの街は魔獣駆除にも力を入れていて、駆除報酬は高めに設定されている。

しかし、大型魔獣が多く、駆除に時間と労力がかかるので稼ぎはあまり良くない。

しかし独り身の僕には十分足りているので、暫くはここで生活するつもりだ。



ーー午後も駆除を続け、僕たちは夕方街に戻った。


「金貨一枚と銀貨一枚だ。」

パパスさんが一人ずつ分け前を渡して行く。


「はい、確かに。」

今日もいつも通りの稼ぎだ。


「それじゃ、明日の予定について話をする。掲示板に面白そうな依頼があった。それを受けたい。」

なんだなんだ?

僕たちがパーティーを組んで二週間も経っていないが魔獣駆除以外の依頼なんて初めての出来事だ。


「その依頼ってなんですか?」

マァムさんが頭を少し傾けて質問する。

アザとかわいい。


「ブルーフォレストに遺跡が見付かった。それの調査だ。日当一人銀貨二枚だが、報告内容によって特別報酬が出る。バクチみたいなもんさ。」

パパスさんもバクチが好きなようだ。

こんなところで共通点を見つけてしまった。


「僕は良いですけど、マァムさんは大丈夫ですか?」

まだお金には余裕がある。マイさんのヒモをしていた時に貯め込んでいたものだ。


「いいですね、楽しそう。」

その笑顔からは嘘を言っているようには見えない。


「何もなければ銀貨二枚ですよ? 良いんですか?」

再度訪ねる。


「ええ。生活に困ったときに援助してくれる人がいるの。気にしなくても大丈夫ですよ?」

パパ活ってやつですよね? 笑顔でそんなこと言われても騙されませんよ?


「つーことだから、明日もよろしく。」

パパスさんが話をまとめる。

これで今日のミーティングは終わった。

僕も少しワクワクしている。

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