第28話マツケンサンバ

「オーレー、オーレ~」

ジャカジャカジャッ


「マツケンサン~バ」

「オーレー、オーレ~」

ジャカジャカジャッ


「マツケンサン~バ~」


「ケン王様! 万歳!!」


魔族領は今、どこもお祭り騒ぎだ。

魔王様の名前はケン・マツモト。

それを親しみを込めてマツケンと呼び、ケン王様を称えるため踊っている。

普段は魔王様の名前を略す事など許されない。

しかし、お祝い事の際だけは別だ。



今は人族と戦争中だ。

今日は、偉大なるケン王様が人族の最初の街を落としたと国中に発布されたため、こうして祝っているのだ。


「やっぱり魔王様はすげーや! 俺も大きくなったら魔王親衛隊に入るんだ!」


「バカ、そんな簡単になれるわけ無いだろ! あれは小さい時から教育を受けてないと無理なんだよ。それこそ御貴族様のお子さんぐらいしかなれないものなの!」


「そんなの、やってみないとわかんないじゃん!」


「わかるよ! 僕だってなりたくて、必死に調べたんだから。だからお前も諦めて、家の跡をちゃんと継げよな!」

友達のウラがいうのなら、その通りなのだろう。

彼の名はウラ。本当は名字持ちでミ ウラという。

彼のご先祖様は、魔族領でも辺境の魔の森の下級貴族だったらしい。

彼の故郷では名字が先に付く。

しかし、昔何か粗相があったらしく、名字を剥奪されてしまった。

魔の森に居られなくなった彼のご先祖様は、この地に来て、魔族学校の教師となった。

彼の家は先生一家だ。

ちなみに魔族学校は各地に点在しており、大きな都市には必ずある。

ここ、ヌマータは魔族領でも小さい方の都市だがちゃんと学校はある。

僕も通っているが、全員が通えるわけではない。

学校にはお金がかかるので、余裕がある家庭でなければ通わせて貰えない。


僕の名前はサトリョーという。

ウラからはサトーと呼ばれている。

僕の家は古くからあるお菓子屋さんで、裕福ではないが、僕を学校に通わせるだけの余裕はあるらしい。

親は学校で計算を学ばせて、お菓子屋さんを継がせたいのだ。



「はあ……」

ウラと別れて学校から帰る途中、ため息が漏れた。


ーーその時、この街に大きな影がさした。


「うわ……デケエ……」


上を見ると、とんでもない大きさの黒いドラゴンが飛んでいた。


その周りにはふた回り程小さいドラゴンが守るようにして飛んでいる。


ーー魔王様と魔王親衛隊だ!



「「ケン王様!万歳!!」」

ヌマータの街に一際大きな声が響いた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「あ、おはようございます。マイさん。」

宿屋の前にはすでにマイさんがいた。


「おはよう。じゃあ行くわよ。」


一瞬酔って記憶が無くなっていればと思ったが、ちゃんと覚えていたみたいだ。

マイさんはさっさと歩いていく。


「あっ、待って下さい!!まだちょっと……」


「なに? きのう手続き終わらせておけって言ったわよね?」


「手続きは終わってるんですけど、松風も連れて来ないと……」


「だったらはやく連れてきなさい!」


僕は急いで松風を連れてきた。



「ブルル!(出たわね! 人間のメス!! 今日こそ血祭りにあげてやるわ!!)」

松風が興奮している。


「どう、どうどう!」

僕は松風を落ち着かせようと撫でてやる。

どうも松風は、マイさんをみると襲いかかろうとする。

昨日の夕方、2人が宿の前に立っていた時も、危うくマイさんに突進するところだった。

しかし、松風は賢い。

僕が駄目だというと、ちゃんと言うことを聞いてくれる。

人の言葉がわかっているのかもしれない。


「ずいぶん荒っぽい馬なのね。だいじょうぶなの?」


「マイさん、あんまり松風を刺激しないで下さい。松風は人間の言葉がわかっている節があるんで。」

マイさんと松風が睨みあっている。

しかも、マイさんの目は縦に細くなり、本気さが伝わってくる。

二人の間にバチバチと稲妻が走る。


「ふん。まあいいわ、ついてきなさい!」

マイさんは振り向くと、歩いていく。


僕も松風を引きながらそれについていく。

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