陸上だけでも無双できない少女。できれば服装くらいは最速でいたい
第1話 陸上少女、アミ
ハードル走。それは前に走り、上に飛ぶことを同時に行う競技。目の前に迫るハードルを跳び、その向こうへと進むことは、まるで空を飛ぶようであった。
スタート地点から最初のハードルまでの13メートルが滑走路。そこから上へと離陸し、地面からわずか84メートルの高度で低空飛行する。心拍数の上昇と共に、速度も急激に上がる。
離陸からわずか87メートル先にあるゴールライン。これが彼女の着陸する滑走路だった。それでも彼女は、減速しない。高度を落とし、姿勢を安定させたまま、全速力でゴールラインを切る。
「――違うな。もう一本、走らせてくれ」
今の走り方のどこかに、本人は納得いかなかったらしい。呼吸を整えながら、再びスタートラインへと歩いていく。
「アミ。もうやめたら?」
同じ陸上部の女子が、いま走った女子――アミに話しかけた。もう夕方だ。そろそろ学校も完全下校時間になる。しかし、
「あー、うん。ハードルの片付けはアタシがやるからさ。頼む。もう一本だけ! 一生のお願い」
「その『もう一本だけ』ってセリフ。もう10回目だよ。もちろん『一生のお願い』も今日で10回目なんだけど、どれだけ転生する気なの?」
「毎回命かけて走ってるつもりだよ」
「命がいくつあっても足りないよ!?」
「はははー。いいだろー。ちょっとくらい時間オーバーしても先生は怒らないって」
アミが大きく伸びをしながら呼吸を整える。そんなことをしているうちに、自然にスターティングブロックに片足をかけていた。
「……分かったよ。勝手にしな。私たちは着替えてくるからね」
仲間が次々といなくなっていく中、アミは一人残った状態でにやりと笑った。
「ありがとう」
結局この日もアミは、顧問の先生が注意するまで練習していた。
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