第127話 マイナス思考
翠と呼ばれるピクシーは、メルーに何かを投げつけられた。明らかに翠は苦しんでいる。
メルーが投げたのは、液体化させた万能薬で、毒はやがて激しく蒸気となり、瞬く間に毒を消化していくのだった。
「ハイム様!お怪我は、お怪我はありませんか?」
「大丈夫だよ?健太はどうなった?」
「健太も大丈夫。翠種毒の万能薬、このメルーが再び開発させました!!」
ハイムは知らなかった。まさか健太を助ける為に万能薬を作っていたなんて。
「え?まさかあの、開発不可能と言われていた翠種解毒剤を・・・」
(メルーちゃん、凄い、凄すぎる!やはり研究所にいるスタッフは一目置く存在・・・しかも俺には優しいし・・・)
いつの間にかハイムはメルーばかりを見ていた。まさか、こんな普通の子が解毒剤をと、再度想う中、ハイムはメルーを見る目が変わってしまったのだ。
(やばい、今は翠の事で非常時だと言うのに、メルーちゃんの事ばかり考えてしまう!いかんいかん!集中だ、集中しろ、俺!)
ハイムはいつの間にか、苦手としていたメルーに対し、自然に興味を持ち始めていた。
それは、今まで自分が持っていた感情とは違う、何か身体が熱く、ハイムには今まで経験のない出来事だった。
「ハ・・・ハイム様?どうしました?顔が赤いですよ?まっ、まさか!翠毒を・・・」
「えっ、ええぁいやわや?いやいや、大丈夫、大丈夫だよ、メルーちゃん、何でもないんだ、何でも!」
(この件が終わったらデートだ、解毒剤について詳しい事を聞かせてほしいって言えばデートに誘う事なんて容易い筈。
いや!しまった!!ダメだ!一度デートしてメルーちゃんが年増ピクシーだったからって途中で帰ったんだった・・・(第9章参照)
もう、デートに誘っても流石に断られるだろう・・・
ああ、勿体ない事をしてしまった・・・)
と、ハイムは思うのであった。
(???ハイム様どうしたんだろ?何かションボリしてる顔をしてる・・・
ハッ!まさか、あたしが勝手な行動をして滝まで行った事であたしに対して失望しているんじゃ・・・
そうよ、そうだわ?きっとそうなんだわ?
・・・もう、完全に・・・嫌われてしまった・・・)
と、メルーは思うのだった。
「ディアネイラ!大丈夫か?」
リョウがディアネイラに駆け寄る。
「うん、ピクシーの子供達が喧嘩したから助かった〜」
「ん〜、しかし翠に光る正体がコレだったとはなー、ちょっと危険だったなー」
「うん♪でも、楽しかった!ねぇ、リョウ、また今度さ、また今度遊ぼうよ?」
「ああ、いいぜ?ところでディアネイラの家はどこにあるんだ?」
「んとね、オイラん家はピカトーレン王・・・」
「あれ?リョウ君?リョウ君じゃない?」
リョウとディアネイラが会話している途中で、メルーが会話の邪魔に入る。
リョウはメルーを見て少し時間がかかったが、思い出した様だ。
「ん?・・・あ!!確か健太んところの!なんか魂が抜けた様な顔してるからわからなかったぜ?」
「そ、そう?」(ハイム様に完全に嫌われたなんて流石に言えない・・・)
「えっと確かメルー?だったかな?このバドーム帝国の領地で何してたの?健太もいるの?」
何していたとは、こっちが聞きたいとメルーは思う中、ハイムの羽再生の件は伏せて、健太の事を話した。
「そっかー。それで今のは解毒剤だったんだなー。で、健太は、何処に?」
「あたしの予想ではそろそろこの場所に来る頃かな。」
メルーは言ったばかりではあったが、予想通り、健太はキョロキョロ辺りを見渡しながらやってきた。
「ハッハッー、健太!大変だったなー。」
「あら?リョウ?なんでこんなところに?」
「あいつは?翠ピクシーはどこなんだ?」
「翠ピクシー?ああ、あいつなら今あの羽なしピクシーさんと話をしている。」
ハイムは解毒されて横たわっている翠の側にいた。
翠は痩せ細っていた。ハイムも翠もお互い幼少期をこの泉で共に生きてきた中だ。
「翠・・・お前・・・ジョーカーだったんだな・・・」
横たわったまま翠はハイムに語った。
「おれはジョーカーではなく、ジョーカーの更に上をいくスーパージョーカーだと思ってた。3種の特別なピクシーだと自分で思った。そう、ずっとそう思っていたんだ。」
「・・・いいじゃないか、ジョーカーってだけでも羨ましいぜ。」
「俺には・・・羽がない、だからまだ大人になれないんだ。」
「何言ってるんだ!自分の身体をよく見てみろ」
翠は横たわったまま首を振り身体を確認する。見ると綺麗な羽が生えていた。
「翠よ、今まで毒の重さで羽が生えていた事が分からなかったのかもしれないな?でも、これで大人の仲間入りだ、良かったな、翠。」
しかし翠は泣きながら次の様に話しかける。
「俺・・・皆んなと一緒に空を飛べるかな・・・」
「勿論だ翠、体力が回復したら、一緒に空を羽ばたこうぜ!?」
ハイムの慰めに翠は安心したのか、フッと目を閉じた。
「え?え?」
ハイムは躊躇する
「ねぇ、メルーちゃん、翠は、翠は助からないの?」
「・・・毒の浸食は身体全体にまで行き渡っていたから・・・おそらくはもう・・・」
メルーはそう言いながら首を振った。
そして、翠に変化が起こる。
"ピクシーという種族はこの世から消える時、光粒子に包まれやがて土に帰る"
と、言われている通り、翠は紅と蒼の弱々しい光粒子に軽く包まれ、土に帰った。
「翠・・・すまない・・・」
ハイムは一言そう言うと、立ち上がり、メルー達のいる場所へと歩き始めた。
(ハイム様・・・かわいそう・・・出来る事ならギュッとして今の不安定な心を癒してあげたい!!
まぁ、そんな事したら、完全に嫌われてしまうからやらないけど・・・)
と、メルーはハイムを見ながら思った。
(メルーちゃん・・・やっぱりこの泉で数年一緒だった奴が土に帰るのは寂しいよ、この寂しさをメルーちゃんに癒してもらいたい!!
まぁ、そんな事したら、完全に嫌われてしまうから求めないけど・・・)
と、ハイムはメルーを見ながら思った。
寂しそうなハイムと感じた健太は、声をかける。
「ハイム、すまない。俺が毒に侵されたばかりに迷惑かけた。」
「いや、まぁ、お前は戦いにまだ慣れてない素人だ。仕方がないよ!」
素人と言う言葉に少し引っかかってしまう健太だが、グッと堪える健太であった。
「さあ、羽を治して帰ろう!ハイム!!」
「ああ!そうだな!」
そしてウルフの2人も
「ディアネイラ、俺たちも帰ろう。」
「うん、明日、明日は?明日またオイラと遊べる?」
「多分な」
健太はリョウとディアネイラを見て直ぐに感じた。
(リョウの奴。そのディアネイラというウルフの娘に惚れられてやんの。
こりゃー面白くなりそうだ!!)
と、思う健太に対してハイムは。
(お、おいおい、王族の王女をこんなあっさりと遊びに誘える奴は初めて見たぞ、このウルフは一体・・・)
と、思うのであった
第16章 宣戦布告計画へ続く。
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