第4話 一つに

 健太は見たことのない大きな種族、トロルを見て気を失ってしまった。


「ハァ〜、人間って知能は高いんだけど、こういうメンタルとかは弱いのよねー。」

 メルーは健太を見ながらため息を吐き、呆れ顔でつぶやく。


「シエルのクソジジイよ、この人間のガキに何をしようとしたのじゃ?」


「何をって、こやつは古代の言葉を喋る珍しい人間じゃ、シュケルのクソジジイよ、ワシはこやつが欲しい!」

 シエルは持っている杖で、健太を指して求める。


「そんな事が許されると思っているのか!ピカトーレンの国王とラマの国王の対立は今に始まった事ではないのじゃぞ!」

 シュケルと言われるオオカミは、随分と鼻にしわを寄せて応じている。

そんなシエルとシュケルが言い合っている中、メルーは小さなスティックを使い、何やら魔法を健太にかけた。


「大丈夫だよー、軽いスリーピングヒールだからね〜。」

 健太はトロル族を見て驚いて気を失った為、メルーの判断として、安心させて眠らせる魔法をかけた様子。


「シエルよ、我がピカトーレン国にはワシらウルフ族のウェルザ王の元、人間とリザードマンの種族が平等に共有して生存しておる。お前達ラマ国は、猫族のラマ・ロッシ王の元、蒼ピクシーとトロル族が平等に生存している筈じゃ!つまりこの小僧をラマ国に行かせるわけには行かん!」


「む〜〜〜・・・」

それでもシエルは健太をラマ国に連れて行きたい様子、そして出した結果は。


「4年じゃ、4年後、その小僧を引き取りに行く!」

シエルが出した提案は、4年後にラマ国に連れて行くといった考えだった。


「4年であろうが10年であろうがダメなものはダメだ!」

 シュケルは再び鼻に皺を寄せてムキになる。


 2人の言い合いに、メルーが口を挟んだ。


「あの、シエル様?あたしもよくわかりません。そんなにあの人間が必要でしょうか?」


「・・・今のままでは・・・ラマ国もピカトーレンも崩壊するかもしれないのじゃ・・・」

 シエルが言った崩壊、その言葉にメルーは驚いた。


「え?崩壊?何故ですか?」


「メルーよ、我が古代研究所は45億年前に栄えていた人間達の研究、あの小僧をこの研究所にスカウトすれば、再びピカトーレンと一つの国になるかもしれんのじゃ!」

 この言葉を聞いたシュケルは口を挟む。


「ほう、それは興味ある話じゃな!ピカトーレンとラマが再び一つになるのならば、ワシは協力しよう。」


「おお!本当かシュケルのクソジジイ!じゃああの小僧を連れて行ってもええんじゃな!?」

 シエルは目を輝かせながらシュケルに確認する。


「寝ぼけた事を言うでない、シエルのクソジジイよ!しかしお主が本気でピカトーレンとラマを再び一つにと考えるならば、4年だ!お主が提案した4年後に小僧を引き渡そう。」


「ニャハハ、交渉成立じゃな!」

 シエルは少し安心した表情で腰を下ろした。


「・・・シエルよ、勘違いするなよ?ワシはお前に協力したわけではない!あの人間こぞうに協力しているのじゃ!」


「シュケルよ、その言葉、そのままお主に返すぞ!」


「何じゃと!クソジジイが!」


「クソジジイとは何じゃ!クソジジイが!」

 このウルフのシュケルと猫族のシエルは、古くからの知り合いの様で、いつも会う度に喧嘩をしている、その光景は蒼ピクシーのメルーも何度も見てきており既に慣れていた。


「ま・・・まぁまぁ、シエル様?お話も終わった事だし、ラマに帰りましょ?うるおい屋の飲み屋さんで喉をうるおわせましょ!?」

 メルーは口喧嘩の間に入り、火花がちりそうな空気を一掃した。


 シュケルは健太を口で一度咥え、上に放り投げる。そのままシュケルの背中でキャッチして伸びたままの健太を山菜の場から移動させる様だ。


「この人間こぞうはワシの施設''シュール''で保護する。4年じゃ、4年あればワシら3カ国共通のバピラ語も話せる様になるじゃろう。今から4年後を目安にワシの施設に来るが良い!さらばじゃ!」

 シュケルは健太を背中に乗せたまま、走り去っていった。


「さあ、シエル様?あたし達も帰りましょ?」


「うむ、4年後・・・か・・・長いよのう・・・」

 夕日を背に猫とピクシーとトロルはラマ国方面へと帰っていく。

古代語を理解している人間健太、それは単なる日本語だが、彼らの世界では貴重な存在なのであろう。


 そして、あっと言う間に、4年が過ぎていった。


第2章 暗黙の出国

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