第2話 知らない地

「我、見られたとならば貴様を連れて行かねばならぬ、バピラに!」


『な・・・なんだ?日本語じゃないから全くわからないが、俺に対して話しかけている・・・よな・・・』


 体長30メートルはあるだろうか、直ぐ真上の空を黒いサメは泳いでいる。ダークルカンと名乗ったこのサメは一体何者なのだろうか。健太は辺りを見渡すが、道路では普通に車が走っている。歩道もいつも通り、人が歩き、犬の散歩をしている人もいる。修一は俺を心配そうな顔をしながら見ている。


「我が時代に人間は必要ないがこれも運命、貴様をバピラへ連れていく!」


ダークルカンは大きな口を開け、そのまま健太に突っ込んでくる。


『う、うわぁぁぁああああああ!!』


 暗い、いや、暗すぎる。自分で目を開けているのか開けていないのか全くわからない程に暗い。そして意識もなくなってきた様な眠たくなってきたのかわからない感覚だ。

そして健太は意識が遠のいてしまう。





 ここは、とある国の国境の境目。茶色いローブを纏い、杖を持っている老いた猫が二本足で歩いていた。その猫の肩には、金髪で上半身タンクトップに下半身ビキニ姿の小さな羽のある小人こびとが座っている。


「シエル様?国境を超えて山菜を採取するのはいい加減やめた方がいいですよ?」

 肩にいた小人は、シエルと言う名の猫に忠告をした様だが、心配した表情で言った訳でもなさそうだ。


「ンニャ?しかしのうメルー、ワシの好きな山菜はピカトーレンにしかなくてのう。」


「・・・もしこれが人間やウルフ達に見つかってしまえば、バッド隊長にまた迷惑かけてしまいますよ?」


 このシエルと呼ばれる猫とメルーと言う小人は、どうやら山菜採取に他国へ侵入しようと考えている様子。特にシエルの方は、侵入の常連の様だ。


「まぁ、バレなければ良いのじゃ!バレなければ!」

 シエルはメルーの忠告を無視し、侵入しようとした時であった。


 空の一部の空間が開いていく、まるで空気と空気が引き裂かれ、中から何かが出てくる様な雰囲気。


 メルーは驚き、羽を広げた。シエルの肩から飛び上がり、引き裂かれた空を指差した。


「ハッ!!シエル様、あの空!!」


「ムムム!エ、エルフ達か!?いや・・・あれは・・・幻獣闇魔法!」


 シエルの言った幻獣闇魔法、それは一体何なのだろうか?暫くすると引き裂かれた空間より何かが出てきた。

真っ黒な巨体、空を泳いでる。


「あれは・・・ダークルカン!いかん!メルーよ、見つかれば厄介じゃ!身を隠すぞ」

 シエルは近くの大きな雑木に身を隠し、枝木の隙間から空を見上げ、様子を見る。


(シエル様、あの魚、何かくわえていませんか?)


(むむ・・・確かに何かを咥えておるな、遠くてわからぬが、エルフか人間の可能性が高い!)


 小声で会話する二人には、ダークルカンも気付かない様だ。そして切り裂かれた空間は完全に閉じてしまった時、ダークルカンは咥えていた人の様な物を口から放つ。そしてその場をグルグルと泳いだ後空高く昇っていき、そして消えていった。


「・・・どうやら、消えた様じゃな。」

シエルは身を隠していた場所から足場の良い場所へと移動した。


「シエル様?ダークルカンとは?」

メルーは再びシエルの肩に腰を下ろし、羽を休めながら質問した。


「幻獣なんぞと契約召喚が出来るのは、エルフ達しかおらんじゃろ。」


「バドーム帝国のエルフ達・・・か・・・イズミさんを葬った恐ろしい国・・・」


「メルーよ、今はまだそんな事を考えてはならぬ。それよりも、ダークルカンが落とした物を確認しにいくぞい。」

 シエルとメルーは移動を始めた。その落とした物を確認する為に・・・





 健太は闇から解放され、そして意識も戻ったみたいだが・・・


『いててて、一体なんだったんだ・・・』

ダークルカンから解放された時は、落とされたが、周りには柔らかめな山菜がクッションとなり、腰を少しだけ痛めた程度だった。


『それよりここは何処だろ?』

 健太は知らない地に連れ去られた。見渡す限りでは山菜だらけだが、少し良い匂いがする。しかし見たことのない植物だ。空を見上げれば、夕日が茜色になっているが、もう一つ太陽の様な光が確認できる。太陽が2つある?


『え?夢?幻?まさか!異世界転生?まさかな・・・』

 健太は思い出した。黒いサメに飲み込まれた事を。おそらく食べられたのではなく、この異世界に飛ばされた?そういう事だろう・・・と考えた。


 (ハッ!誰か来る!)

 健太は知らない地で知らない人と出会う事に対し、どうしようか迷ったが、どう判断しようかを考える時間はどうやら無さそうだ。


「おお!山菜がいっぱいじゃな!メルー。」


「シエル様?山菜よりも今はあの生き物の確認ですよ?」

 メルーは羽を広げ、飛びながら健太に指を差した。


『え・・・猫?・・・猫が喋ってる・・・それに人形が動いてる・・・』

 健太は初めて見る生き物を目の前に、つい言葉が出た。

しかし、シエルとメルーは・・・


「・・・人間の様じゃな、ピカトーレンの者か?」


「さあどうでしょう、でもシエル様、そんな事よりも、コイツ・・・」


「うむ・・・我らが研究している古代の言葉を喋れる人間の様じゃな・・・」


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