天涯孤独なヒモが元担任に養われる。

蛇さん

第1話 不幸の始まり

わたる。ごめんなさい。ほんとにひどい母親でごめんね。〇〇〇〇〇。」

母はその言葉を伝え、俺の目の前でベランダから飛び降りた。



今から三十分前の事だ。

大きな物音が聞こえ目を覚ました。その音は立て続けに聞こえる。

ものを投げ捨てた音。ものを壊す音。人を殴る音。母の悲鳴。父の怒鳴り声。

リビングを覗くと父が母を殴り、怒鳴りつけていた。DVだ。

母は顔や腹などを殴られ蹴られたりしたのだろう。唇が切れ、顔や足が痣だらけだった。

すぐさま父に飛び掛かり、母を守ろうとする。しかし相手は腐っても大人だ。こっちは体もまだ成長途中の高校生だ。相手になるはずがなかった。返り討ちにあう。

何分だろうか、長い時間殴られ続けた。

何故こんなにも父親は怒っているのだろう。分からない。愛しい人・愛する子になぜこんなにも醜い憎しみをぶつけられるのだろう。分からない。



気が付くと父親が殴るのを止めていた。横に倒れ込んでいた。背中に包丁が刺さっていた。傷跡を見るに何度も何度も刺されたのだろう。血が大量に飛び散っていた。

母はうずくまり、泣いていた。何度も何度も父への謝罪の言葉を口にしていた。

俺が目を覚ましたことに気が付くと、母は俺を抱きしめた。


「ごめんなさい。私が何もできないから。航には未来があるのに、貴方の未来と家族を奪ってごめんなさい。今まで何もできなくてごめんなさい。大した親になれなくてごめんなさい。最後まで愛せなくてごめんなさい。航。貴方には生きてほしい。これは最後のお願い。」


母はベランダの窓を開け、こちらを見つめていた。


「航。ごめんなさい。ひどい母親でごめんなさい。あいしてる。」





母は自殺した。


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