愛犬のふかかいさ

バブみ道日丿宮組

お題:愛と死のぺろぺろ 制限時間:15分

愛犬のふかかいさ

「どうかしたの?」

 愛犬が部屋を出たり入ったりを数分前から繰り返してる。

 もちろん、そこになにか興味を持つようなものはないし、異臭もしてない。

 それにいっさい吠えもしないし、いったいどうしたんだろう。

「……ん? よしよし」

 近寄り、撫で回すと、手を舐めてきて、愛くるしい声をあげた。

 お腹が空いてるのかと、台所に向かおうとしてみるが、ついてこなかった。いつもは台所まで一緒についてくるのに、依然として部屋を出たり入ったり。

 異常はないだろうし、とりあえずおやつを持ってくることを決意し、台所に向かう。

「……こんなものかな」

 ジャーキーを少し皿に盛り付ける。

 あとは呼べば、2階にある私の部屋から降りてくるだろう。

「おーい、おやつできたよ~」

 数秒、数分待っても階段をドタドタ降りてくる音はしないし、気配もしない。

「……?」

 なんだろうか。反抗期だろうか? 犬にもそういう時期あるのかな?

 まぁ部屋にいるのなら、そのまま持っていってあげればいいか。

「世話がやけるんだから」

 思わず声が漏れる。

 お母さんたちがいないとどうしても独り言が多くなる。いけない癖だ。

「……あれ?」

 2階まで登ると、部屋からしっぽがはみ出てるのが見えた。

 どうやら歩くのはやめたらしい。

「えっ、えっ……ねぇ、大丈夫?」

 部屋までたどり着くと、愛犬がぱたりと倒れてた。身動きしない。

「……疲れちゃったとか?」

 呼吸はしてる。死んではいない。

 目の前にジャーキーを一本持っていっても反応しない。

 これはなんだろうか。よくない病気かなにかだろうか?

「……どうしよう」

 お母さんたち今いないから、車で病院にいけない。

「……」

 このままにしておいたら、いけない気がする。

 そう決意すると、部屋着から外着にかえて、愛犬をペット用のかごの中に入れて、外に出た。

 家は大通りに近くて、

「どこどこのそこそこ動物病院までお願いします」

 すぐにタクシーを捕まえることができて病院にいくことができた。

 タクシーの中でも依然として、愛犬の様子に変わりはなくグデっと倒れてた。

 それから診察をしてもらって、異常がないという診断を受けた。

 でも、次の日愛犬はいなくなってた。死んだというより、消え去ってた。

 家族会議が起こる。

 ケージの中にいたのか、戸締まりはしてあったか。

 問題はなかった。異常がないことが異常なくらいなにもなかった。

 家から出ていって、いなくなってはいない。

 じゃぁ、どうして家からいなくなったのかはわからない。

 悲しみが家族の中に広がった。

 それは死んだという事実よりも深い絶望を作り上げた。

「……こうかな?」

 愛犬がいなくなったときの行動を思い返して、部屋をでたり入ったりしてみる。

 もちろん、何も起きない。

 手を舐めてくれた感触が隙間風で撫でられた気がする。いなくなったという現実感が、全身を巡った。

 ただそれだけしかなかった。


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愛犬のふかかいさ バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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