ガラクタ・ギャザリング
カワバタ テツヒロ
テンビン
大学生のAは写真を撮るのが趣味で、暇があれば近所・遠出を構わずに公園へ出掛ける。都会のど真ん中で緑豊かな木々と灰色のコンクリートジャングルを融合させた写真、田舎の遠く青い澄んだ空をただ捉えた写真。そんな写真を撮るのがとても好きだった。
それらを共有して皆に見てもらいたいのだが、どうしてもきれいな夜景の写真やドラマチックなものが好まれてしまう。しかし、そんなチンケなものに興味はない。自分が撮る写真こそ、全てである。そう考えている。
男は例外なく授業のないこの時間に公園へとやってきた。カメラを持って公園内をうろつく。子どもたちがキャッキャと声を出しながら走り回っている。その光景をカメラに抑える。いい写真だ。
公園内には整備されていない池がある。その周りは成人男性の腰ほどまでに藪が伸びている。そんな藪の中から写真を撮ってみようと考え、足を踏み入れると大きなダンボールを見つけた。警戒しながらダンボールを少し蹴り上げてみるとガタガタと動き始めた。ダンボールを持ち上げてみると、そこには50代から60代のスーツを着た男、サラリーマンが正座していた。
Aは一瞬驚いたが直ぐに、
「ああ、かわいそうに」と悲しんだ。
男はAにダンボールを蹴られたことに驚き、怯えていたが直ぐに目を合わせた。
「君は捨てられてしまったんだね」
Aは男に声を掛けたが反応はない。仕方がない。最近はサラリーマンが捨てられることが多くなっている。怖がるのもしょうがないことだ。最近も都内の公園で高齢の女性が捨てられていることがニュースになっていたな。なんとも、この公園でもこんな事が起きてしまっている。
Aが悲しんでいるすぐ横でガサゴソと音が響いた。音の方向へ進むと同じようなダンボールを見つけた。持ち上げてみると今度は学生服を着た女が座っていた。
女は人に慣れているのか直ぐに目を合わせた。
「君も捨てられたのか」とAは悲しんだ。
Aは本当であれば二人を連れて帰りたい。そう思ってはいるが、
「ごめんね、今日は一人しか連れて帰れないんだ」と申し訳なく言う。
男と女はAの言葉に反応することをしない。
「どっちを連れて帰ったら良いかな・・・・」
Aはどちらを連れて帰ったら良いのか考え始めた。
まず、サラリーマンの場合を考える。
着ているスーツは土汚れがあって汚く見えるがとても高いものに見える。また、かばんも近くに転がっていて、それも高いブランド物だった。この人は元々お金があったのだろう。
次に女の方だ。
学生服を着ていることを考えればこの女は高校生ぐらいの年齢だろう。肌を見ても、髪質をみても10代であることは間違いなさそうだ。見つけたときには気づかなかったが、かなり胸が大きい。これに気づくと男の心内はとても揺れ動いた。
まいった。
中立的に物事を考えなくてはいけないのに駄目じゃないか。顔を見ても美人だ。
Aはこの女を連れて帰ることを妄想する。生唾を飲み込んだ。
Aが妄想にふけているとばたりとサラリーマンが倒れた。
「おい、大丈夫か」
サラリーマンの顔に触れると熱を出していた。Aはサラリーマンを起こすと体が震えていることに気づいた。
「昨日まで寒かったもんな。ごめんな、気付けてあげなくって」
サラリーマンはAの言葉に微笑んだ。
Aは女に「ごめんね。まず、この人を助ける。もし、いい人がいたら・・・・・・その人に飼ってもらうんだよ」言って頭を撫でた。Aの言葉を理解していないのかどこかぽかんと抜けた顔をしている。
Aはサラリーマンを背中に乗せて歩き始める。
「こりゃあ、大変なことが起きたな」
この状況を笑って過ごすしか無い。
ふと、Aの頭の中に以前飼っていた40代の女の事がぶり返してきた。あいつは元気にしてるかな。あいつは大丈夫かな。今もあの公園で元気にしているだろうか。
「よし、家に帰ったら餌をやるからな」
Aは頭の中でこいつを使ってどう脚色をして、評価を得ようか考えた。ただ、懸念点は死にかけていることだが、まぁ同情は得るだろう。半年近く生きたらまた捨てればいい。そして、さっきのメスを拾って飼えばいい。
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