第4話 再会
「ごめん、ごめん」
どうして。どうして私はナギサを、5年前のあの日のことを忘れていたんだ。
私は、5年前。ナギサという少女とアリシアという少女と3人で一緒にいたんだ。そして、SPESの実験に苦しんでいたナギサを救うために脱出をしようとした。しかし、それもあえなく失敗。結果として私はアリシアを失ったんだ。あの時、私は自分の力不足を知った。だから、一旦逃げ出し力をつけて今度こそ渚を助ける。そう誓ったのに……
「どうして……私は……」
何が≪名探偵≫だ。私は、大切なものを守れなかったばかりか、そのことまで忘れてしまっていたんだ。
「ナギサ、ごめん。私は、ナギサのことを助けられなかった。それなのに」
私は謝ることしか出来ない。5年前、救えなかったこの少女の体にひたすら謝ることしか出来ない。
「しえす、シエスタ?」
「ナギサ?」
この声、間違いない。今、私の前にいるのはナギサだ。
「そうだよ。アタシの名前はナギサ。あなたから貰った大切な、大切な名前」
「ナギサ!良かった。無事だったんだね」
今更、虫が良すぎるというのは自分でもよく分かる。それでも、伝えずにはいられない。
「シエスタ。こんな感情を露わにするような子だったけ?」
「……。バカか」
渚の意地悪な反応に対して、思わず悪態をついえしまった。
「えっ?なんで今、あたし侮辱されたの?」
「ふふ。それは私に君が意地悪を言うからだよ」
「シエスタぁー」
はあ、とナギサがため息をつく。
それと同時に私もため息をついていた。
「はは、ははは」
「ふふ、ふふふ」
偶然、2人同時にため息をついてしまった。
それがなんだかおかしくて思わず2人で笑ってしまった。
そして数秒間笑い合った後、
「久しぶりぶりだね、ナギサ」
まだ出来ていなかった再会の挨拶をナギサにした。
「久しぶり?そんなに時間経ってたっけ?」
そうか、ナギサはヘルと二重人格に近い状態だった。ということは私と別れてからはヘルの人格だけが現れていてナギサの人格はずっと眠ったままだった?
でも、だったらどうしてナギサの人格はずっと目を覚ましていなかったのか。分からないが恐らくはナギサの方が主人格だったはずだ。なら、そんなずっと眠っているなんてこと………
そうか、ナギサは≪SPES≫の苦しみから逃げるためにもう一つの人格を生み出したんだ。だから、長い間ナギサの人格は表に現れなかったんだ。もし、そうならヘルは
…………
そういうことか。全てが繋がった。あの依頼は………。ヘルはナギサを………。
ありがとう、ヘル。
「ちょっと。シエスタ?聞いてる?」
「えっ?」
「さっきまでシエスタ。ずっと難しいこと考えてる顔をしてた」
考えることに手一杯で忘れてた。
「ごめん。考え事を。
それでさっきの質問の答えだけど、5年間」
「5年間!?」
「そう、5年間。ナギサと私が離れて5年間が経っている」
これは、いうべきなのか。少し、悩んだが言わなければならない。そうじゃなければ、
ヘルがうかばれない。
「そして君は、君の人格はこの5年間ずっと眠っていた。その間はヘルというもう一つの人格が君に代わり≪SPES≫にいた」
「あたしの代わりに?ってことは……」
「そう、君の代わりにヘルが≪SPES≫の実験に耐えていた。そして、この体が死なないように立ち振る舞っていた。恐らくは、いくらかの残虐な行いをしてでも」
「そんな……あたしは、そのヘルって子に全てを押し付け、さらには命まで救われてたって事?」
「うん。簡単に言えばそういう事になる」
でも、とナギサを罪悪感から救うような言葉を言おうとした。けれど、何も私には言えない。探偵をやっているおかげというべきか、せいというべきか、ナギサの罪悪感を消せるような言葉を私は持っている。しかし、それを言う事は私には許されない。ヘルのために。そして何より5年間もナギサの事を忘れていた私にはそんな資格はない。だから、ナギサの答えを待つしかできない。
「ねぇ、シエスタ」
「なに?」
一体、ナギサは私に何を言うつもりなのだろう。ナギサがどんな答えを出すのか検討もつかない。
「そのヘルって子に伝えて。あたしのことなんて気にしなくていいこの体はあなたにあげるって」
思ってもみなかった答えが返ってきた。
「どういう、意味?」
おそるおそる、私はその言葉の意味をナギサに尋ねた。知りたくない、間違いであって欲しいそう思いながらもそう尋ねた。
「多分だけどさ。この体の主人格はアタシなんだ。さっきシエスタがあたしを呼んだ時出てこられた。つまり、この体に誰が現れるかっていうのを決める力みたいなものはあたしの方が強いと思うんだ。だから、あたしはこの先もう現れないようにする。そうして、この体を完全にヘルに引き渡す。これぐらいしか思いつかないんだ。今まで、あたしに縛られた人生を歩んできたんだと思う。せめてこれからは自由に生きれるように、これが私にできる限界。ホントは向かいあってお礼も言いたいんだけど、そうはいかないんだと思う。そうだ、シエスタ。ヘルに代わりにありがとうって伝えるのもお願いしていい?」
「いや。いやだよ」
まさかこんな答えを導き出すなんて。勝手に話を進めないでほしい。5年ぶりに会えたのに、また別れるの?そんなの嫌だ。それに私にだって罪はある。あの時、私がみんなを救えていたら、こんな事にはならなかった。だから、私が全部なんとかする。
「そんな結末、私は認めない」
「認めないって……でも、ならあたしはヘルへの恩返しをどうすればいいの?ヘルへの罪滅ぼしを」
ナギサは彼女の持つ激情の全てを私にぶつけてきた。そんな彼女に私は
「任せて。私が全部どうにかする」
そう言った。これから先、私がいうことを出来る確証はどこにもない。それでも私はそう言い切った。
「どうにかって。何をどうするの?」
「君とヘルが2人同時に現れられるようにする。そうすれば、ナギサのヘルを自由にし対面してお礼をするという目的と私のナギサを救いたいという気持ち、そして5年間君のことを忘れていた罪滅ぼし、その全てができる」
「そんな都合のいいこと……」
出来るわけない。そう言いたいのだろう。
でも
「知らなかった?私は完全無欠のハッピーエンドが好きなんだ」
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