探偵はもう、死んでいる。 ルートΩ

さらぎれい

第1話 キミ、ボクのパートナーになってよ

一体、何を言ってるんだコイツは。俺がコイツのパートナーに?

「何が目的なんだ」

「目的?」

ヘルは小さく、そう溢すと

「≪聖典≫」

一冊の本を俺にみせてきた。

おそらく、これがアイツのいう≪聖典≫というものなんだろう。しかし、それが何だというんだ。ただの本に一体何の意味があるんだ。

「この≪聖典≫には少し先の未来のことが断片的ではあるんだけど記されている」

なるほど、そこに俺とヘルがパートナーになるというような事が書かれているのか。

「だからって、どうしてお前は俺をパートナーにしようとするんだ?他に何か目的があるんじゃないのか?」

「ないよ。別にボク自身はキミに興味はない。でも、≪聖典≫にそう書かれているんだ。だから、ボクは君をパートナーにしないといけない」

何故だ。どうしてコイツは≪聖典≫の未来にこだわるんだ。考えられる可能性は

「≪聖典≫……か。そこにはお前が望む未来が書かれているのか?」

「違うよ。これはあくまでも断片的にしか記されていないし、そんなに遠い未来のことも記されてはいない。だから、ボクの目的はそんな事なんかじゃない。ただ、これに従うことが大切なんだよ」

違ったのか。なら、ヘルはただひたすらに≪聖典≫に従い続けているだけなのか。

「なあ、ヘル。そんな本なんかに縛られる人生って楽しいか?」

えっ?

口には出していないがそう言っているような表情をヘルは一瞬だけ浮かべた。しかし、それは一瞬のことで、ヘルはまた先ほどまでと同じ調子で

「うん、楽しいよ。だってそれがボクの使命だから」

と答えた。

話し合いは無駄なのかと感じた。しかし、あの一瞬のヘルの表情。それがどうしても引っかかる。もしかしたら、俺とコイツは同じかもしれない。そう感じる。

「じゃあヘル、お前に友達っているか?」

お前には友達が居ないんじゃないのか?いつしか、俺が名探偵にかけられたのと同じような事をヘルに問いかけた。最も、あの時は問いかけられたというよりも決めつけられていたような気もするが。

「何をいきなり。キミじゃないんだから」

「理不尽だ」

どうして、ヘルにまでこんな扱いをされなければならないんだ。

「一体何がいいたいわけ?」

ヘルは先程よりも低い声で、鋭い目で俺を睨みつけてきた。

その眼力だけで、人を殺せると思うほどの迫力がそこにはあった。俺も命は大切だ。だから、この場はどうにか適当に時間を潰しシエスタが助けに来るのを待つ。それが本来、俺がやるべきことなんだろう。しかし、今はそんなことはしない。いや、できない。

俺の予想が当たっている確率なんて高がしれている。だから、もっと探りを入れて確信を得てからこれは言うつもりだった。俺の勘違いだったらヘルを怒らせて俺が殺されかねない。だが、もう俺は覚悟を決めて粉砕上等で言った。

「お前、もしかして寂しいんじゃないのか」

と。昔の俺がそうだった。この巻き込まれ体質のせいで友達が出来ず苦しんでいた時期があった。その時は1人の寂しさを誤魔化すために無駄に勉強をしたり、本を読んだりしていた。

もしかしたら、コイツも同じじゃないのかと思ったんだ。1人が寂しいから。その孤独を誤魔化すために≪聖典≫に依存を。依存した振りをしているんじゃないか。

まただ、ヘルの方を見るとまた先程と同じ悲しげな表情を浮かべた。が、またも表情を元に戻し

「違う!ボクは寂しくなんてない!」

と叫んだ。

違うだろ。そうじゃないはずだ。

「なら、どうしてお前はそんな≪聖典≫なんかに依存しているんだ」

「それは……」

そこでヘルが口籠った。これで確信を得た。ヘルは俺と同じなんだ。俺の直感、或いは経験がそう教えてくれる。なら俺はコイツを絶対に助けたい。

「なあ、ヘル。俺と、俺たちの仲間にならないか?」

昔の自分を思い出させるような彼女に俺はそんな提案をした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る