Retrograde

 (Hollow)

第1話 

「はぁ、はぁ、これでよかったんだ。この人が悪いんだ……この人が……」


 私は殺人を犯した。

 これは罪だ。

 たとえ、どんな理由があろうともこれは許されざることだ。

 そんなことはこれを計画したときに覚悟していたはず……はずなんだ……

 だがいざ実行してみると辛いものだ。

 もう無縁だろうと思っていた感情が心の中を満たす。


 恐怖、後悔、罪悪感、煩悩、殺意、虚空……

 結局のところ『正義のため』と、いう名の大義名分を背負い人を殺した。

 満たされない……

 悩みが消えない。どうやって死体を隠そう。どうやって証拠隠滅しよう。

 事前に計画していたはずなのに悩みが消えない……

 ずっと付きまとってくる。

 煩悩の犬は追えども去らず、とはよく言ったものだ。

 今の私にはよく似合っている。

 さぁ、これからどうしよう。

 こいつを殺したはいいものの、何も怪しまれずにいつもの生活に戻れるだろうか?

 いや、人を殺しておいてそれはおこがましいだろう。

 だが、こいつは悪人だ。

 殺して何が悪い。

 悪人はみな等しく死ぬべきなのだ。

 私が、俺がこの世界を正すんだ。









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「お巡りさん死体です。死体があります。早く来てください」

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