華の秘密。①
「あー疲れた」
「撮影出来ないのに三回も乗る必要ないじゃないか。……おえっ」
「君のリアクションが面白いんだもん。次は小型カメラとヘルメット用意してから行こうね」
「二度と行かない。行っても乗らない」
「いやーそれにしても室内って最高っ」
遊園地の後は少し早めの夕食を取るために近くのファミレスに寄った。
「それよりさ、再生回数また伸びてるね。コメントもたっくさん。お似合いだって。うふふ」
僕たちの出した二本の動画はこの数日でさらに伸びて二十万回を突破していた。
「広告も付けられそうだね」
「広告はいらない。別にお金が欲しくてやってるわけじゃないし」
まあ、彼女がそう言うなら僕は従うまでだ。
ここでも撮影し、結局今日は食べてばかりの動画になってしまった。
「私ちょっとトイレ行ってくるね」
そう言って彼女は小さいポーチを持って立ち上がった。
化粧直しでもしてくるんだろと思い、「行ってらっしゃい」と言ったその時彼女が盛大に転んだ。
「おい、大丈夫か?」
僕が彼女に駆け寄ると、彼女はすぐに立ち上がろうとしていたのでそばに落ちてたポーチを拾おうとした。
ポーチはチャックが壊れているのか開いていた。
驚いた。その周りには化粧品ではなくて数種類の薬が散らばっており、体温計やペンのようなものもあった。近くで見るとそれはポーチではなくインスリンケースだったのだ。
「あ、今日女の子の日でさ。撮影中にお腹痛くなったり頭痛したりしたらやだなって思って大量に持ってきちゃった」
彼女の顔は笑顔だったが、焦ったように説明をしてきた。
「そ、そうなんだ。はい」
僕はケースを彼女に渡した。
生理でこれを持ち歩くのだろうか? 生理事情は僕にはわからないので信じるしかなかった。いや、そう信じたかった。
……まさか彼女が。
映画で見たことがある。大病を患っている少年がさっきの彼女と同じような中身のケースを持ち歩いている場面を。だから、彼女はただ人よりきつい生理痛なだけなのだと信じたかった。
「そろそろ帰ろうか」
彼女はトイレから戻ると席には座らずカバンとカメラを取ってそう言った。
「そうだね」
席を立ち、会計を割り勘で済ませて店を出て駅に向かった。
「あんだけバズってたら学校の人に視てるかもね」
「あ、ああ」
僕はさっきの出来事が頭から離れず、返事が曖昧になった。
「次はどこに行こうかなー。ね、君は――」
「病気なの?」
「……え?」
聞いてしまった。どうしても、もう一度確認したかったから。
「あれ、インスリンケースだよね。生理痛で体温計とか、あの薬の量とか……おかしい」
おかしいよ、でも、本当に違うのならもう一度本当に生理だからと言ってほしい。
「……ばれちゃったか。あははっ」
……え。鼓動が急に早くなった。
「笑えないよ……」
「どうして。私が病気なんだよ。君には関係ないじゃん」
彼女は今まで聞いたことがない、悲しい声をしていた。
「……関係あるよ。僕たち、友達じゃないか」
「……」
彼女は俯いたままだった。
「死ぬの?」
「死ぬよ。あとどれくらい持つかわからない」
彼女はさらりと言って、笑った。その笑顔を夕陽が照らす。そして彼女は続けた。
「脳に腫瘍があるの。お医者さんは手の施しようがないって言ってた。インスリンケースは自宅療養のため。もう病院で出来ることはないから家に帰っていいんだって」
つまり、彼女に残されたのは死を待つという残酷な時間だけ。それなのに、どうして笑顔なの。
僕は彼女にかける言葉がなく、呆然としていた。
「だからね、死ぬ前に君との思い出を残したかったの」
「え?」
どうして最後に僕との思い出を? もっと大事な友達がいるだろ。
「中学三年のあの日、君と初めて初めて話した日。私、死のうとしてたの」
覚えている。でもあの日君は友達と喧嘩したって……。
衝撃の事実に驚愕した。
「でもそんな時君が現れて、君は強いねって言ってくれた」
僕はあの日の記憶を鮮明に思い出した。
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