華銀、水族館へ。②

 「よし。これで今日の撮影は終わり!」

 「うん」

 彼女がカメラで動画を見返している間に僕もスマホで撮った写真を見返して、余韻に浸っていた。

 ペンギンの可愛さに気付いてしまった。また見に行きたいと思った。

 「楽しかったね」

 「そうだね。ちゃんと動画が撮れているか心配だけど」

 「だいじょぶだってー」

 彼女は撮った動画を見ながらにっと笑っていた。

 「それにしても、ペンギン可愛すぎだろ」

 カメラから顔を上げた彼女は、へーっと珍しいものを見る目で僕を見た。

 「なに?」

 「いや、君の口から可愛いなんて単語が出てくるとは思わなかったからさ」

 「いやいや、僕にだって感情はあるから」

 「へえー、じゃあ私は? 可愛い?」

 ふいにされた質問に戸惑った。

 「は? 何言ってんの」

 「あー、いいんだ?答えてくれないと――」

続きには察しがついたので遮った。

 「わかったよ! ……ペンギンの次くらいに、可愛い」

 すると彼女は目を丸くして恥ずかしそうにカメラで顔を隠した。

 「君が言えっていったんだろ。なに照れてんだよ」

 「照れてないし! っていうか、ペンギンの次に、は余計でしょ」

 一瞬むすっとしたかと思ったら、すぐに彼女は笑顔になった。

 「まったく。君の感情が僕にはわからない。どうしていつも笑顔でいられるの?」

 「私の持ち味はこの美しい顔とこの可愛らし笑顔だけだからですー」

 顔にしか自信がないのはどうかと思うけど、実際、男は顔の良い女には弱い傾向がある。そうすると彼女はこの世の中で生きやすい人間と言えるのかもしれない。

 「はいはい。遅くなる前に帰ろう」

 「まあ、私に近寄って来る男なんてどうせ顔目当てでしかないけどね」

 彼女の声のトーンが少し下がった。

 「そっか。いい人現れるといいね」

 僕には恋愛経験などない。興味がないわけじゃないが、別に恋人がほしいわけでもない。

 「他人事みたいにいってー」

 「他人事だよ。君の恋愛事情に興味はないよ」

 「興味も持とうよ。君にだって私に惚れるチャンスはあるんだよ?」

 「……ない」

 「あ、今少し考えた。少しくらいは興味あるんじゃん」

 このままだと「本当のことを言え」と脅されそうだったので無視して歩き出した。

 ちょっと―、と後ろから声がしたが構わず歩き続けた。

 追いついた彼女は僕の目の前に来て、カメラを渡してきた。

 「あ、そっか。パソコンに取り込んでから明日返すね」

 「うん! 出来た動画私にも見せてね」

 「ユーチューブに出すからそれで見なよ、華銀カップルだっけ?」

 彼女は笑いながら「確かに」と頷いた。

  帰りの電車、僕は思っていた以上に疲れていたみたいで、彼女に起こされるまでずっと寝ていた。

 「ちょっと、君の最寄り駅着いたよ」

 「ふわあ……」

 眠い目をこすりながら立ち上がった。

 「今日はありがとうね」

 ぼやけた視界からも彼女が笑っていることがわかった。

 「こちらこそ。あ、明日はバイトあるから」

 そう言い残し電車を降りた。

 あれほど憂鬱だった彼女との撮影も、実際行ってみたら意外にもい楽しんでいた自分がいた。

 「悪くないかもな」

 そう呟き、改札を出て帰路に就いた。

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