野良猫とメスブタ
門前払 勝無
第1話
「野良猫とメスブタ」
同じメイクの人が無数にいて、KKKの集会みたいである。流行りとはアリンコになる事みたいなものだ。
自分を特別視しているわりには他人と同じような事ばかり言っている。たしかに自分は一人しかいないがアリンコ思考によりその他に紛れたいという願望が露になっている故に、その他と何ら変わらないのである。こんなことを言ったらアリンコに失礼だな…。アリンコの中にはチャレンジャーがいて行列からはみ出してバケツを登り雨水に落ちて死に行く英雄も居るのである。
真奈美はベランダのバケツを除き混みながら煙草を吸っている。
アークティックモンキーズを爆音でかけてベランダの花に水をやる。
花は私の奴隷…私を満足させる為だけに存在している。私はめんどくさいけど水を奴隷達に与える。コーヒーを飲みながら「花の上手な育て方」という本を読む…奴隷達の為である。多少の労力を使うのも腹立つけど…仕方無い。
康は弘子の後ろ姿を観ながら、弘子の頭の中を想像する。結婚して子供を産んで旦那の稼ぎで幸せに…なりたいんだろうなぁ…。
俺はアリンコみたいな生活はゴメンだぜ…。やりたいことをキリギリスのようにやっていきたいんだ。でも、弘子を捨てることはしないから安心しろ…とりあえず音楽でも聴くかな…。今日はアークティックモンキーズを聴こう…弘子はロックは好きじゃないけど俺は好きなんだ。
後で弘子と道玄坂のエッグベネディクトの店に出掛けよう。たまには渋谷でランチでもしよう。
真奈美は風に揺れる奴隷達をしばらく見つめてカーディガンを羽織って外へ出た。
代々木公園を通って道玄坂まで行こう。ウィンドウショッピングでもしてランチして、東急ハンズに肥料でも買いに行こう。
康は東急ハンズの入口で煙草を吸っている。弘子のトイレ待ちである。
真奈美は東急ハンズの入口でニキロの肥料を持って煙草を吸っている。
真奈美は強烈な磁力の様なもので右に引っ張られた。
無精髭のTシャツジーパンの男を見つめた。白いオーラを纏っていて間違いなくオリジナルであった。その他の遺伝子組み換えのクローン人間ではなくで完全なるオリジナルな人であった。
感じた。
康は左側が気になったが、煙草を右手で吸うから左側は見ない。
夜空はネオンで輝き、朝はスーパーカブのエンジン音…。電車の走りすぎる音と人の歩く影…。不快な空気を吸いながら高速道路を見上げる。
小さな花が「ご主人様おはようございます」と言う。
弘子が仕事支度をしながらパンとヨーグルトとコーヒーをテーブルに並べる。
康は…なんとなく舌打ちをする。
真奈美は花を“うるさい”と睨み付ける。
何故だか今日はイラつく…何もかもがむかつく…鼓動が荒くなる。落ち着く為に散歩に出掛ける。小さな公園の花壇にベランダの花を植え替える。小さな公園の花壇に花を植えてる人をブランコに揺られながら見つめる。
康は自分を見ている気がした。真奈美は自分に見られてる気がした。
「無意味に生きてるのは俺だけじゃなかったか…」
「全ての人間に意味なんて無いのよ」
「君は何を求めている?」
「私は…私を認めてくれる人を求めてるの」
「君はその他と同じだよ…何ら変わらないよ」
「貴方も認めてくれないの?…私は貴方の存在を認めているわよ」
「随分、上から見ているんだな…偉ぶるなよ…君も所詮はメスブタだよ」
「そうね…貴方に私の事なんて解らない…」
「俺に理解を求めるんじゃなくて…まずは自分を認めてやれよ…俺らはロマンチストの野良猫とメスブタなんだから…自分を認めてやらなきゃ…悲しいだろ」
「貴方と喋ってると独り言を喋ってるみたい…」
「恐らく…君と俺は一つなんだろうな」
ジェット機が頭上を飛んで行く。
「君と俺は、たぶん、進化を同時にしているではないかな…答えを出すために」
真奈美は康のポケットから煙草を取り出して吸った。
そして、頷いた。
時間の止まった小さな公園で二人は抱き合って風に乗って消えていった。
おわり
野良猫とメスブタ 門前払 勝無 @kaburemono
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます