手を振る女の子 (ホラー)

恋人と並んで駅の方へ向かっていると、前から親子連れが歩いて来た。

母親は、日よけとみられる大きな帽子を被っており、顔は見えない。

三、四歳くらいの女の子と手をつないでいた。


女の子が、僕の方を見て、笑いながら手を振って来た。


反射的に僕も右手を振った。

「なにやってるの」

親子とすれ違ったのち、隣の恋人が僕に聞いた。

「いや、女の子が手を振って来たからさ、可愛いなと思って」

「女の子? どこにいるの」

「どこにって、今すれ違っただろう?」

「いないよ。帽子を被った女の人とはすれ違ったけど」

「え」


 親子は僕の隣を通りすぎて行ったから、彼女の位置から見えなかったのだろうか。

 僕は不思議に思いながら、駅で恋人と別れた。

 ホームで電車を待つ。

 なんだか、肩が重いなあ……。

 電車がやって来たので乗り込む。座席は空いていなくて、ドア付近に立った。

 ドアが閉まる。

「うわあっ」

 ドアに、僕の背に負ぶさる女の子が映っていた。三、四歳くらいの、さっきの女の子だ。

 女の子は、僕の背中にしがみつきながら、にっこり笑って、手を振った。

 

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