エレベーターの女 (ホラー)
私がとあるデパートのエレベーターに乗って、一階へと向かっていると、途中、一人の女性が乗り込んできた。
自分と同じ、二十代後半くらいの年齢に見えた。
長い黒髪で、背が高く、スタイルがいい。私は同じ女としてほんの少し羨ましく思った。私は背が低く、どちらかといえばぽっちゃりしているから。
エレベーターは私とその黒髪女性だけを乗せて動き出す。女性も一階を目指しているようで、特にボタンを押さなかった。ドアの方を向いて、入り口付近に立っている。
もともとエレベーターの奥にいた私は、自然と彼女の長い黒髪を見つめるような形になった。
癖のない黒髪はまるでビロードのようで、よく手入れされているのが素人目にも分かる。染めすぎで枝毛だらけの私の髪とは大違いだ。
そんなことを考えながら、一瞬だけ手元のスマートフォンに目をやり、また顔を上げたその瞬間、息が止まった。
女性がこちらを向いていた。……いや、違う。顔だ。女性の長い黒髪がかき分けられ、そこから別の顔がこんにちはしていたのだ!
私は立ちすくんだ。あまりの恐怖に身動きできず、言葉も出なかった。だけど不思議とその第二の顔(?)から目が離せなかった。顔の方も私をじっと見つめている。
第二の顔も女性に見えたが、今私の前に立っている女性とは別人だと思った。もっと年をとっている。
かしゃん、と音がして、私ははっとした。スマートフォンを床に落としてしまったのだ。
前に立つ女性がその音に振り返る。それと同時にエレベーターが一階に到着し、ドアが開いた。
女性は私のことなど気にせず、また前を向き、エレベーターを降りて行った。その後ろ姿に、もう第二の顔はなかった。
なんだったんだろう。あれは。
私はスマートフォンを拾うと、のろのろとエレベーターを降りた。
それからしばらくは、長い黒髪の女性を見ると、後ろ姿が気になって仕方がない。
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