復活の打ち上げ花火 (コメディ)

 私は、もうすぐ死ぬ。

 自分の枯れ木みたいになった腕を目の前に掲げて、そう思う。その腕で、両目を覆う。ああ、もう腕を持ち上げる力もない。ひんやりとした、私の腕。もうすぐ生命活動を終える、私の腕。


 もうダメだ……。ベッドに仰向けになって呟く。


 もういい。もういいよ。最早私は何も考えることが出来ない。真っ白だ。思考がストップしてる。

 それに疲れた。目の前がちかちかしてきて、聞こえてくるドン、ドン、という音だけ鮮明だ。

 ベッドの脇の、窓を見る。


 花火、見られるかな。最後のはなむけに。


 よろよろと最後の力を振り絞って、窓を開ける。生暖かい空気が冷えた体を撫でた。夏の空気だ。窓枠にもたれ掛かる。ひゅるるるるる……、


 ドーン!!!!


「キタ――――――!!」


 私は秒で窓から離れると、ベッドを飛び越えて、パソコンに向かう。叩きつけるようにキーを打つ。これだこれだこれだ!


「いいかげん、スランプだからって、瀕死のヒロインやる癖やめたら? ブツブツうるっさいんだけど。別に腕は枯れ木になってないし、ひんやりしてるのはこの部屋のエアコンが効きすぎてるからだし、目がちかちかするのは小説をずっと書いてたからでしょ」

 隣の部屋の妹が苦情を言いに来たみたいだが、知ったこっちゃない。

 今、まさに、! 打ち上げ花火とともに! これは傑作になるに違いない!

「ったく、web小説サイトにハマりすぎだっての」

 小学生の妹は呆れて去って行った。友達とこれから夏祭りに行くのだろう。さっきの花火が、たしか開始の合図だ。


 私は開けた窓もそのままに、猛然と頭の中に浮かんだものを、文字にする。タイトルは……、


「復活の打ち上げ花火」

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