第39話 真犯人(3)招待

 堀迫が電話を切った直後、ドアチャイムが鳴った。

「早すぎるな。誰だろう」

 堀迫はそう言って、玄関につけたカメラ映像を見た。

 男が2人いた。どこか暴力に関するものを感じさせる雰囲気があるが、暴力団などではなく、権力の匂いもする。

「警察か」

 呟きに律子は体を硬直させた。

「でも、早すぎるな。たまたまだな」

 言って、堀迫は律子を振り返った。

「良かったな。梶浦君に見捨てられたわけじゃ無さそうだぞ」

 律子は安心したようなムッとしたような複雑な気分になり、叫んで助けを呼ぼうと息を吸い込んだ時にナイフを目の前に突き付けられ、声が出なくなった。

「ここは防音だから聞こえないけどね。それでもやかましいから、黙っててくれないか」

 堀迫は温度の無い目でそう言うと、律子の口にタオルを突っ込み、ガムテープで固定した。


「留守か」

「仕方ない。また出直すか」

 刑事コンビは溜め息をついて、堀迫家から離れた。

 その8分後、自転車をとばしてセレが玄関の前に着いた。

「暑い」

 ボソリと不満そうに言いながら、自転車を止めてドアチャイムに指をのばす。

 と、先にインターフォンから声がした。

『自転車を庭に入れて。そうしたら、鍵は今開けるよ。玄関から入ったら階段があるから、その下にある地下へ下りる階段を下りて来て』

 セレは言われたとおりに、自転車を門扉の中に入れて止め、玄関を開けた。

 普通の家に見えた。

 しかし、どこか寒々しい。それにスリッパや靴箱の上に飾られた人形などが、古く感じられた。

 言われた通り、階段の裏側へ回ると、床下収納庫の扉のようなものが開いており、そこに、下へ向かう階段があった。

 そこを下りて行く。

 地下には部屋が1つしかなかった。その重い扉を開けると、堀迫と、縛られた律子が見えた。

「やあ、ようこそ。来てくれて嬉しいよ」

 堀迫はそう言って、にっこりと、どこか歪な笑みを浮かべた。

「お前は誰だ。連続女子高生拷問殺人事件の犯人か。以前も尾行していた事があったな」

 セレが訊くと、堀迫は頷いた。

「そう言えば、ぼくは君を知ってるけど、君はぼくを知らないんだったね。

 ぼくは堀迫邦夫。大学院生だ」

「女子高生が嫌いなのか」

 訊きながら、目の端で部屋の中を確認する。

(カメラはないか。防音はしっかりしてるらしいな)

 律子が縛りつけられているベッドのそばにはテーブルがあり、そこに、金属の棒やペンチやナイフが載せられている。

 よく見るとそれは収納台で、中には、たくさんのレコードが入っていた。

 正面には大きなオーディオセットがあり、それに向かって、部屋の中央にソファとローテーブルが置いてある。

「嫌いだね。傲慢で、自分がいつも正しいと思ってて、自分が世界で一番偉いとでも思ってるんだろう。イライラしたよ、昔から。あれは、敵だ」

 堀迫はそう言って、顔を歪めた。

「君にもわかるだろう?確認もせずに噂をばら撒いて、いい事をした気になって」

 堀迫はそう言いながら憎々し気にどこかを睨んだ。

「それは、水島晴美と戸川好子だろう」

「ああ。前橋とかいうやつは、婆さんにぶつかっておいて、自分が悪いのに謝りもしなかった。

 江成というやつは、ホテルに男を誘っておいて、部屋へ入った所を仲間に写真に撮らせてからそれで脅して金をゆすり取るようなやつだよ。

 この子は、まともなのかと思ってたけど、やっぱりね。価値観を押し付ける傲慢な女だよ」

 セレは、律子が目を見開いて首を横に振るのを見た。

「ふうん。

 じゃあ、前の時の被害者達も?」

「ああ。最低な女達、ぼくらの敵だよ」

 堀迫は顔を歪めてそう吐き捨てるように言った。

 セレは律子に近付いた。

「まあ確かに、酷いやつはいるだろう。

 でも、僕の父は、あんたの罪を着せられて逮捕され、死んだ。あんたがそれほど公明正大な存在なら、どうして名乗り出なかった?

 結局あんたは、なんだかんだと言い訳して殺人を繰り返しているだけだろ。僕にとっては、あんたが敵だな」

 ナイフを取り上げて、律子の戒めを解く。

 律子は起き上がると、ガムテープを剥がしてベッドから下りた。

「梶浦君、私──!」

「後で」

 そう言ってセレは律子の前に立ち、堀迫を見た。

 堀迫は怒りのためにか真っ赤な顔をし、セレを睨んでいた。

「君は仲間だと思ってたのに」

「どうしてそう思うのかわからないな」

 セレは言いながら、

(まあ、同じく人を殺しているんだけど)

と心の中で言った。

「君はぼくを騙したな。同罪だ。君も、ぼくに裁かれなければならない!」

 律子がセレの後ろでセレのシャツを掴んだ。

「お前にそんな権利はない」

 言って、律子をかばいながらドアへ向かう。

「帰すわけがないだろう」

 堀迫はドアの前に立って、拳銃を構えた。

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