第34話 狩り(2)ゲームフィールド
モトはその3日後、ヤブにスーツ姿の男2人と引き合わされた。
「キズさんね。差し支えなかったら、どうしてこういう境遇になったか聞かせてもらえるか」
「……」
「いやね、手伝ってもらうアウトドアに来るのが、まあ、色々と立場もある人だから。念のためにさ」
そう言われて、モトは口を開いた。
「借金でどうにもいかなくなって、戸籍を売ったんですよ。キズというのも、俺はただのキズモノって意味で」
自嘲するように笑うと、スーツの男達は顔を合わせて笑った。
「なあに、気にするなよ。人生、そのうち上手く行くって。な」
「はあ」
「OK。キズさん、バイトの話をしようか」
「アウトドアの手伝い、ですよね。ええっと、一応、テント張ったり、火起こししたり、そういうのはできます」
「充分だ。よろしく頼むよ」
男はそう言って愛想よく笑うと、モトを乗って来た車に乗せ、河川敷を走って出た。
モトの作業服のポケットに差し込んだボールペン型のマイクを通してそれを聞いていたリクとセレは、
「怪しすぎるだろ」
『いや、セレ。金に困って追い詰められたら、多少の怪しい所も、見えなくなるんだよ』
と言い合った。
パソコンでは、モトの持つGPS発信機からの電波が、山の方へと向かっていた。
「じゃあ、こっちも出発する」
『気を付けろよ。今の所、モトの反応はその道を真っすぐに北へ向かってる』
「了解」
セレは21歳の別人名義の免許証をポケットに、車を発進させた。
車は遺体の発見された山から少し離れた山に着いた。
入り口には門があり、高くてしっかりとしたフェンスが付けられている。
そこに着くと、運転していた男はダッシュボードからリモコンを出して門に向け、ボタンを押した。それで門が開き、車はその奥の坂道に入って行った。
モトは後部座席に座って、何気なく言う。
「立派な門ですね。それに、リモコンで開け閉めですか。流石、お金持ちが集まるキャンプ場だ」
助手席の男は笑って、肩越しに振り返った。
「この山は丸ごと敷地で、グルリとフェンスで囲ってある。ここ以外はフェンスに電流が流れる仕組みだからな」
「へえ」
車は上へ上がって行き、大きな山荘の前で停まった。
既に、車が数台止まっている。外車も国産車も色々あるが、総じて、値段が高いという所が共通している。
「さ、こっちだ」
モトは促されて、山荘に足を踏み入れた。
玄関ドアを開けると、そこにいた男達が一斉にモト達を見た。
年齢は20代から50代まで様々で、外国の映画に出て来る狩猟服のような格好をした者もいれば、迷彩服を着た者もいる。そして各々、銃や大ぶりなナイフ、弓矢を手にしていた。
モトは一応、案内人を見た。
「キズ君。彼らがお客様だ。しっかりと、お手伝いを頼む」
「キャンプですよね?」
「キャンプだなんて言ったか?」
男は目を剥いて両手を広げ、驚いて見せた。それに皆がさざ波のように笑い声を上げる。
「アウトドアだよ、アウトドア。狩りを楽しむ会なんだよ。その手伝いを頼みたいんだ」
「狩り」
「ああ。範囲はこの山全体。言ったが、フェンスには電流を流すから、出る事は出来ない。
君は狩りのターゲットだ。彼らから逃げ回ってくれ」
「はあ?銃や弓やナイフを持っていますよね?」
「ああ。狩りだからね」
客達は、笑ってモトをジロジロと見た。
「なかなか鍛えてあるが、丈夫なんだろうね」
「この前みたいに、少し逃げただけで息が上がって走れないなんてガッカリだからね」
「大丈夫、ご安心ください」
モトは、それらしく抵抗してみせる。
「待てよ、話が違う!」
「ここまで来たら、やめたは無しだ。
ここからキズ君がスタートして、10分後にハンターもスタートする。
キズ君が目指すのは、門とは反対側にあるゴールだ。赤い鳥居の祠を作ってある。その中にスイッチがあるから、押せばゲーム終了だ。賞金としてお客さん1人1人から100万、つまり今日だと600万だな。渡そう」
モトは客である男達を見回した。
「せいぜい、逃げてくれ」
中の1人が代表してそう言い、彼らは低く笑った。
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