第14話 スパイ狩り(4)ささやかなお祝い
リクがグーグルマップで計測したところ、3627メートル。世界記録だったらしい。
それを聞いて密かに「よし」と思ったが、それだけだ。
ただ、それでは寂しいからと、リクがケーキをネットで頼み、3人で食べた。
路上で刺殺されていたサラリーマンの事件と、死んだ運転手の性別も不明なほど爆発炎上する廃遊園地の前での大事故のニュースが少し流れ、それもすぐに収まった。
薬師が3人を集めて報告した。
「無事にターゲットは両方死亡、機密情報の流出は防げた。
妨害して来た2人組は、CIAのエージェントだった。あのスパイ、通称フォックスに煮え湯を飲まされていたらしい。それで、いつの間にかワシントンから日本に場所を移していたのに気付いて、追いかけて来たそうだ」
「よその庭で好き勝手してくれた謝罪は?」
リクが聞くが、薬師は首を振った。
「ま、そうだろうな」
モトは首をすくめ、
「あの野郎。次は叩きのめしてやる」
とケントを思い浮かべて呟いた。
「ごくろうだった」
薬師はそう言って、それでミーティングは終わった。
結子は妹律子のクラスメイトである梶浦瀬蓮について調べた。
「こんな所にいたとはね」
世間を騒がせた大事件だった。今も、大抵の人は覚えているだろう。
その頃は結子もまだ学生だったが、大罪人の家族が連日マスコミに追い回され、テレビや週刊誌、ネットで叩かれていた事を、今でもよく覚えている。
(あれほどの凶悪な事件を引き起こした犯人だもの。いくら普通のフリをしていたって、家族は何かを感じていた筈。それを黙ってたんだわ。
家族は犯罪者じゃないとは言っても、その後を知りたがるのが人情だものね。
あの後母親は行方をくらませたみたいだけど、ここで息子に会えるとはついてるわ。大罪人の父親を持ち、母親に捨てられた子供のその後。
きっと、部数が伸びるわ。これで、駆け出しとかお嬢ちゃんとか言われないで済む、本当の記者になれる)
結子はフフと笑った。
「お姉ちゃん、お風呂空いたよ。
って、なに?何か機嫌いいけど?」
律子がリビングに来て、結子が缶ビールを冷蔵庫から取り出すのを見て言った。
いつもはビールテイスト飲料だが、今日はとっておきの本物のビールだ。
「ああ、りっちゃん。フフ。そうね、この取材が終わって記事になったら、きっとね」
「へえ。特ダネってやつ?」
「そうそう。世間の関心を引くに違いない大ネタよ。
りっちゃんも乾杯しよ!ジュースだけど」
律子は機嫌のいい結子に付き合って、冷蔵庫からジュースを取り出した。
父親の転勤に母親も付いて行って、その先でテロに巻き込まれて死んでしまった。それ以来、姉妹2人で暮らしている。その姉がここまで喜んでいるのは、律子にとっても、とても嬉しい事だ。
「何だろ、世間の関心を引く事って」
「内緒よ、内緒。
かんぱーい!」
結子と律子は缶をぶつけ合い、ゴクゴクと喉を鳴らして飲んだ。
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