第9話 魔法のサプリメント(5)闘技場
椅子があるだけの狭い部屋に入れられ、鍵をかけられる。
足音が離れるのを待って、セレは小声で喋った。
「どう?」
すぐに、目立たないように装着されたイヤホンから返事が返る。
『VIP客にお知らせをしてるようだね。1時間後にショーを開催しますって』
そのリクの声に続いて、モトの声がした。
『あの死んだ高校生は、このデスマッチで死んだんだろうな』
「どうする?試合開始で、始めていいの?」
『ああ、好きにやっていい。上の客は別部隊が抑えるし、俺はガードマンをやる』
「わかった」
それで会話は終わり、セレは軽くストレッチを始めた。
東雲は大学の同級生と一緒に飲みに出ていた。
話は、仕事や上司のグチと、職場の男性社員の事だ。
と、スラリとした若い男と、高校生くらいの子が視界の隅を通った。
「え?」
その高校生が見知った顔だったように思えて、東雲はそちらを見た。
「なになに。いい男でもいた?」
「そうじゃなくて、知り合いがいたような……」
友人達が絡む。
「知り合い?男?女?」
「男――って、生徒よ」
言って、思い出す。影の薄さからすぐにわからなかったが、セレだったと。
「あんたね、こんな時まで生徒指導しなくていいの」
「それともそういう気になる子?」
「そんなわけないでしょ」
「でも、見間違いじゃないの?ここ、高校生が来るような所じゃないよ?」
確かに、繁華街は繁華街でも、子供が来るような繁華街ではない。
「そう、ねえ。大人しい子だし……」
友人達は半分酔っており、ギャアギャアとうるさい。東雲は確認のために追いかけた方がいいかと悩んだが、とうに姿は見えないし、友人を放ってもおけないので、見間違いだったのだろうと自分に言い聞かせた。
時間になり、セレは迎えに来た従業員に連れられて、そこへ行った。
通路を通って明るい部屋へ出ると、そこは闘技場になっていた。5メートル四方くらいのリングがあり、その向こう側にはこちらと同じように通路がある。
リングと通路の、片側は壁だったが、もう片側には金網が張ってある。そしてその金網の外側には一段高い客席があり、テーブルに客が着いて、期待したような目をリングに向けていた。
それらを、片方の目を閉じて、セレは見ていた。
と、向こう側の通路に、試合相手が現れた。
セレと同じような年頃で、向こうにも従業員が付いている。
「セコンド?」
背後の従業員は失笑し、懐から拳銃を取り出した。
「逃げて来たら、撃つ係だ」
セレはそれを見て肩を竦めた。
「向こうも同じように、バイト?」
「ああ。2連勝中だぞ。
ルールは簡単。生き残った方が勝ち、それだけだ」
そう言って、刃渡りが13センチほどのナイフを差し出し、リングに進めと拳銃の先を振って見せた。
セレがナイフを手に足を踏み出すと、向こうもリングに進んで来た。
ゆっくりと歩を勧めて近付いて行くと、相手はナイフをもてあそぶようにして、ニヤニヤと笑った。
「弱そうだな。へへっ」
そして、サプリメントを口にいれていたらしく、ガリガリと噛んだ。
その瞬間、リングと客席の灯りが落ち、真っ暗になった。
「何?」
「演出か?」
「殺すところを見るためのショーだぞ!灯りを点けろよ!」
客席から声がする。
セレは灯りが消えると同時にもう片方の目を開き、すぐに試合相手に肉薄し、頸動脈を切り裂いた。
そして次に、向こう側の従業員に向かってダッシュし、頸動脈を切って殺す。
「どうした?停電か?」
セレについて来ていた従業員は真っ暗で何も見えない中、どうしようもなく、声だけを上げていた。
その従業員に近付き、同じように首を掻き切って、こちらも殺す。
そして客席に目をやると、暗視カメラを着けたモトが従業員と客を片っ端から殺して回っているのがどうにか見え、セレはそのまま通路へ戻って行った。
地下の闘技場の区画から「面接」のあった部屋へ入る所でモトと合流し、モトからマスクを受け取り、お互いにそれを着ける。
『あといるのは、1階の客と、厨房スタッフだけだよ』
「警察は」
モトの問いに、リクがすぐに、
『到着まで40秒。裏口付近に人影なし』
と答える。
「よし、裏口から出る」
モトとセレは、足早に階段を上がり、厨房脇の裏口から外に出ると、急ぎつつも堂々とその場を離れた。
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