第10話 魔法のサプリメント(6)疑惑
朝から、新聞もテレビもネットも、そのニュース一色だった。
暴力団とスクールカウンセラーが組んで、高校生を相手に新しい覚せい剤を販売。購入資金に困った顧客には、売春をさせるか、殺し合いをさせて、その殺し合いはVIPにショーとして高額で見せ、どちらが勝つか賭けをしていた。
そんな店に警察が検挙の為に行くと、未成年買春と殺し合いの行われていた地下部分にいた従業員と客は殺されていた。
1階にいたのは普通のバーと思っていた客と、買春には気付いていたという程度の従業員だけで、一応警察署で事情を訊かれている。そういう内容だった。
「うわあ、怖い!」
職員室でもこの話でもちきりで、まさかうちの生徒で、サプリメントに手を出していた生徒はいないだろうな、と騒ぎになっていた。
東雲は、落ち着かない様子で考えていた。
(このお店って、昨日私達がいた所の近くだわ。そんな近くで、こんな事件が起こっていたなんて。
ん?あの梶浦君かと思った子、梶浦君じゃないわよね)
にわかに心配になり、狼狽え始めた。
律子はニュースを見ていて遅くなり、時計を見て慌てて準備をしていた。
「早くしないと遅刻するよ」
姉の結子が言った時、律子のカバンが倒れて中身が出た。
「あああ~」
「入れといて上げるから、うがいして来なさい」
歯ブラシをくわえた律子は、大人しく洗面所に走って行く。
苦笑しながらそれを見て、結子は教科書やノートをカバンに入れて行った。
が、それを見て手が止まる。
「梶浦瀬蓮?かじうら、せれん、いや、せれ。かじうらせれ。まさか――」
呟いていると、律子が駈け込んで来る。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「律子。これ、かじうらせれ?」
「あ、そう。よく読めたね。同じクラスよ。昨日ノート借りたんだ。えへへ」
「そう。この子、男の子よね」
「う?うん」
「家族はいない?」
「確か、伯父さんと叔父さんと3人で暮らしてるとか。何で?知ってるの?」
「え、まあ、こっちはね。で、その梶浦君――」
「ああ!もうだめ!遅れる!行って来る!」
律子は飛び出して行き、結子は仕方なくそれを見送った。
「別人?でも、そうそうありふれてはいない名前だし」
考えていたが、すぐに律子はニンマリと笑った。
「覚せい剤だって!ミントタブレットみたいなやつ!あいつがそんなものに手を出してたなんてなあ」
坂上が興奮したように言うのに、笠松は、
「それより、窓口になってたとかいうスクールカウンセラーだよ。悩んでいるやつがすぐにわかるだろうけどさ、卑怯だよね。皆信用して相談するのに」
と憤慨する。
「まあな。
俺は話した事は無いけど、優しくて話しやすい、いい先生だって評判だったよ」
「悪人は悪人面してるとは限らないんだよね、本当に」
そう言って2人で、うんうんと頷き合う。
「どうしたの、真剣な顔して。
梶浦君、ノートありがとう」
律子が近付いて来て、セレにノートを差し出した。
「うん」
「あ、梶浦君って、伯父さんと叔父さんと暮らしてるんだったっけ」
セレは首を傾けながら、内心でやや警戒した。
「そうだけど、どうかした?」
「あ、ううん、別に」
律子は笑って誤魔化した。
(一方的に知ってるかもってだけだったしね。別に言わなくても)
そう考えていると、琴美が駈け込んで来て律子に飛びつく。
「おはよ、りっちゃん。それでお願い。英語の訳、見せて。今日は当たりそうなのに、やって来てない~」
「早くしないと予鈴鳴っちゃうよ!」
律子と琴美はバタバタと席に急ぎ、セレ、笠松、坂上はそれを気の抜けた気分で眺め、坂上がハッとしたように言った。
「やべえ、俺も当たるじゃんか、その法則だと。
訳、写させてくれ!ゲル――はいいや、梶浦!」
笠松が唸る。
「俺はいいって何だよ」
「お前の訳は独特すぎて、もう1段階訳がいるだろ」
それにセレが少し吹き出し、笠松は
「独創的、芸術的なんだよ」
と胸を張る。
そうして、その大ニュースの話題も、すぐに薄れて行った。
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