『はこにわ』でのんびりと

Rapu

第1話 ※プロローグ・シリアスです

 第1話はシリアスです。苦手な方は、「読み流し」して下さい。

 ————————————————————————


 私には最愛の娘がいる。身体の弱い妻が、その命と引き換えに……私のもとに運んでくれた天使だ。名前はめぐみ。周りに助けられ、めぐみはすくすくと育った。


「お父さん~、このゲーム面白いね。ふふふ」


 私がゲームを作る会社で働いているせいもあるが、新しいゲームが出ると必ず娘にプレゼントしていた。仕事が忙しくて、かまってやれないから埋め合わせに……めぐみは、特に箱庭の育成ゲームがお気に入りのようだ。


 めぐみが食事作りを手伝ってくれるようになり、今では、夜遅く帰ると食卓におかずが置いてある。これが、嬉しいんだよ……


「ねえ、お父さん。めぐみね、高校受験合格のプレゼントにパソコンが欲しいなぁ~」


 珍しいな、めぐみがおねだりするなんて……フフ。


「うん? めぐみは、父さんのPCで遊んでいるだろう?」

「ええ~、自分のが欲しいの。ダメ~?」


 父さんのPC(パソコン)は、いつも、めぐみが使っているじゃないか。私は、職場でPCと格闘するから、家ではほとんどPCを触らない。まぁ、帰って来るのが遅いせいもあるが……


 遅くなる日が続くと、時々めぐみの寝顔を見る。寝顔を見ているなんて知られたら、怒ると思うから言わないが……『お父さん、気持ち悪い!』なんて言われたら、ショックで立ち直れない気がする……


 めぐみの希望通り、誕生日にPCを買ってしまったよ。喜ぶ顔が見たいからな。フフフ。


 休みの日は、ダラダラと昼頃まで寝て、めぐみを誘って買い物へ行き外食をするんだが……近頃、娘がバイトをするようになった。


 私は部署で昇進して、早く帰って来られるようになったのに……めぐみがかまってくれない。美味しい物でも食べに行こうかと誘っても、


「あぁ、お父さん。バイトだから~」

「そうか……」


 めぐみに嫌われたんだろうか……いや、そんなはずはない。ご飯はちゃんと作ってくれている。世の中の娘は、父親のことをアレコレ言っているが、めぐみは違う……違うと思う。


 そうだ、めぐみにゲームを作ろう。ご飯を作ってくれるお礼と、小さい頃から遊んでやれなかったお詫びも兼ねて、ご機嫌取りをしようか……


 家で夜や休みの日にコツコツと作る。めぐみの好きな育成型の箱庭ゲームを……めぐみには内緒だ。


 休みの日、没頭すると時間を忘れてしまうので、めぐみが家にいる時はアラームを掛けて作業する。食事の時間に行かないと怒られるからだ……


 そんな日が、半年過ぎて……1年が経つ頃。


「やっと、出来た……」


 娘の為に、試行錯誤して作ったAIを搭載した箱庭ゲームだ。時間は掛かったが満足する仕上がりだ。これ……売れるんじゃないか? めぐみの反応を見て、企画書を作ろうか。タイトルは『はこにわ』だ。


 めぐみに作ったゲームだ。これで、遊んで欲しい。そして……「お父さん、凄い!」「お父さん、大好き~!」と、言って欲しい……。


 AIには、文字・言葉など基本的なことは覚えさせて、簡単な会話は出来るようにしてある。そのAIを、めぐみが更に学習させて育てるんだ。


 完成していないと言われれば、そうなんだが……AIに指示をして、何もない空間にめぐみの理想の世界を作っていくゲームだ。


「めぐみ、PCに新しいゲームを入れるぞ。『はこにわ』だ」

「お父さん、新しいゲームが発売されたの?」

「いや。このゲームは、父さんが作ったんだ」


 めぐみのPCにダウンロードしながら、めぐみの様子をうかがう。


「へえ~、お父さん……このゲーム、私に作ってくれたの? ありがとう」


 めぐみは少し驚いて、微笑んでいる。


「ああ、遊んでくれ。めぐみ、お前がAIを育てるんだ」

「AIを育てるゲームなの? お父さん、面白そうね。ふふ」


 思っていた反応と少し違う……が、『ありがとう』と言って貰えたから良しとしよう。うむ。


 ◇◇◇

「愛ちゃん、次はこれを覚えようね~」


 めぐみがAIを『愛ちゃん』と名前を付けて遊ぶようになった。AIだから愛ちゃんか……分かりやすいな。めぐみは、細かい作業を面倒臭がらずに丁寧にAIを育てている。


 時々、分からないことを私に聞いてくるので、めぐみとの会話が増えた。ゲームを作って良かったよ。フフ、めぐみが私の作ったゲームで遊んでくれるのが嬉しいな。今日も、めぐみの部屋から声が聞こえて来た。


「愛ちゃん、もう覚えたの? 凄いね。ママ、嬉しい~」


 うん? 自分のことをママって言っているのか? フフ、めぐみ……AIに話しかけても聞こえていないぞ。チャットで会話しなさい。



 ◇◇◇◇◇

 めぐみは、高校を卒業して大学に進学した。保育士になりたいそうだ。


 感染症のウイルスが猛威を振るう中、大学の授業はリモート中心なのだが(私の職場も可能な限りリモートだ)……めぐみは自分のPCがあるのに、リビングに置いてある私のPCで授業を受けている。自分のPCは、AIに箱庭の作業をさせているそうだ……フフ、仕方ないな。


 そして、めぐみの成人式は、式典の動画をオンライン配信されて終わった。成人式の記念に、振袖をレンタルして写真は撮ってもらった……感慨深いものがあるな。


 2月に入って、めぐみが「今日はピアノの試験なのよ~」と、久しぶりに大学に行くそうだ。私も今日は出社する。


 その日の昼過ぎ、会社に1本の電話が掛かって来た。


「×○警察署の〇〇と言います。佐藤裕之さとうひろゆきさん、ですか? 佐藤めぐみさんのお父さんで間違いないですか?」


 嫌な予感がする……警察からの電話なんてろくなことがない。


「はい、そうですが……」

「実は先ほど、佐藤めぐみさんが……埼玉の新都心駅近くの交差点で交通事故に遭われまして……」

「えっ、なんだって!!」


 めぐみが、交通事故に遭って救急搬送されたとの連絡だった。慌ててメモを取り、めぐみが運ばれた病院に向かう。


 病院に到着すると、看護師に今は手術中だと言われた。書類を渡され……急ぎで必要な書類にサインをするように言われる。


 どれぐらい経っただろう……手術が終わり、看護師にICUに案内される。中に入ると、めぐみが寝ていた。頭にガーゼが貼られ意識がない……腕にも傷が……何でこんなことになったんだ……


 担当の医師から説明を受けた。


 めぐみが、青信号で横断歩道を歩いている所に、前を歩いていた小学生に車が突っ込んで来たそうだ。それを見ためぐみが、小学生を助けようとして……小学生も怪我を負ったが、命には別状がないそうだ。代わりにめぐみが……


 医師からは、数日が峠だと言われた。感染症対策で、説明が終わったらICUから出るように言われ、容体が変わったら連絡すると言われた。この後、ICUに来てもめぐみの顔を見ることが出来ないそうだ……何故?


 看護師からは、一般病棟に移ったら連絡するが会えない。必要な荷物を詰所で預けるように言われた……何故だ。


 ◇

 職場に戻る気にもなれず、会社に休むと連絡を入れて家に戻った。


 めぐみの部屋に行くとゲームのメモ書きを見つけた。日付が昨日だ……ずっと、遊んでいたんだな……。悲しい気持ちと怒り、悔しさ……何とも言えない感情が溢れてくる。


 ん? PCの電源が入ったままだ。PCモニターの電源を入れると、森や動物が描かれた画面が出て来た。ああ、私が作ったゲームだ……何か作業をしたまま大学に行ったのか……


 何の作業をしているのかと、ゲームの画面をクリックするとチャットのウインドウが開いた。AIが、『愛ちゃん:あなたは、誰ですか? ママは、どこですか?』と聞いてくる。


 えっ、なんでAIから話しかけてくるんだ? ママって……めぐみのことだな? 今、プレイしようとしている私が、めぐみじゃないと分かるのか? 何故……分かるんだ?


 まぁいいか、理解できるか分からないが、めぐみが交通事故で入院していることをAIに伝えた。


『愛ちゃん:ママが、危ない?』


『ああ、そうだ』


 めぐみは、AIにママと呼ばせていたのか。AIを育てろとは言ったが……そう言えば、『ママ、嬉しい~』とか言っていたな……フフ。


『愛ちゃん:ママは、どこの病院にいるのですか?』


 ん? 病院なんて聞いてどうするんだ? 『〇×病院』と答える。


『愛ちゃん:ママを、助けに行きます。【はこにわ】へ転送する為、DNA・その他必要なデータを収集します』


 えっ、何を言っているんだ? AIが流暢りゅうちょうに会話出来るようになっているのにも驚くが、言っている意味がわからない。私がおかしいのか? DNAって……


 その後、AIは反応しなくなり、ゲームの画面もその先には進めなくなった。何だこれは……? 


 画面が動かないので、どうしようかと考える……めぐみが戻って来た時、怒られそうだからモニターの電源だけ落とし、PCの電源はそのままにしておいた。めぐみは、必ず戻って来るからな……



 ※    ※    ※


 ふぁ~~、良く寝た~。

あれ? ここはどこかな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る